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井坂洋子「はるの雪」[2024年04月26日(Fri)]

DSC_0426.jpg

ケヤキの根方にハルジオンが咲いていた。



*******


はるの雪   井坂洋子


空が割れて
雪が降ってくる
破天荒な空模様である
小さなこどもの手をとり
物語の奥へと誘う
(ぼくはどこに行くの)
答えられないひとつめの質問
わたしたちが虫ならば
天地はお前の庭まで
わたしたちが人ならば
天地は夕暮れの鉄橋まで
こどもは
ひとつ胴震いして
目を大きく見開く

(ママはどこに行くの)
答えられないふたつめの質問
時間の流れを
順を追って思いだし
思い出すことにぶらさがっている
他にはなにも考えたくない
物語のはずれの
青い影の角で待ちあわせても
だれもこなかった



ハルキ文庫『井坂洋子詩集』(角川春樹事務所、2024年)より


◆小さなこどもの質問は、親と子の立場をひっくり返して、こちらが子どもの方に訊きたい質問のはずだ。
言って見れば、手をとったままブンと回転すればこちらの方が子どもになっているはず。

だから(ママはどこに行くの)というふたつめの質問は、そのまま「わたしはどこへ行くの」と自分に発し続けている質問なのだった。
答えられるはずがない。
(もし答えが分かっているのだったら、もう生きる意味だって失われているのだろうから。)

結尾「青い影の角」というのはこの上なく抽象的な場所だ。
「待ちあわせても」とあるが、それは「物語」の中での空想で、いつまで待っていても誰もこない。
何度繰り返してみても同じことなんだろうか?――もし、そうなんだと分かってしまったら、この天地(物語)の世界に「わたし」はいる意味もないはず――それだからこそ、「待つ」ことを決してやめたりはしない。
どんなに破天荒な空模様ばかりが続くとしても、だ。


***

DSC_0428.jpg

ケヤキの若葉は今頃がとりわけ清々しい。



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