
赤木祐子「人生を棄てるスケジュール」[2024年02月26日(Mon)]
◆ゴミ袋を切らした。市指定の、容量で5リットルから40リットル入りまで4サイズあるうち、いつも使う20リットル入りのやつだ。
台所の野菜クズ、やむなく10リットル入りの袋に入れた。
次の可燃ゴミは木曜日。”ひょっとしてこの10リットルのやつで保(も)つかも知れない”などと考えている。
そう思ったあとに、ゴミ袋に合わせて生きている気がしてきた。
◆数個残ったチョコレートを、今すぐ食べたいわけでは無いのに、雑紙出すのが明日だから、というそれだけの理由で食べ切って空き箱を解体していることがある。
封を切ったスパゲッティが出てきたので、今夜はナポリタンにしよう、ちょうど明日はプラごみの日でもあるし……などと考えていることも少なくない。
(ちなみにこの地域のプラごみ回収は水曜日。かさばるプラごみを一掃できるので、「♪明日は嬉しいプラごみ日〜」と「ひな祭り」のメロディで口ずさんでいるのが常である)。
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人生を棄てるスケジュール 赤木祐子
月曜日 燃やすごみを捨てる
火曜日 燃えないごみを捨てる
水曜日 容器包装プラスチックを捨てる
木曜日 紙資源と布資源を捨てる
金曜日 瓶と缶を捨てる
土曜日 仕事の責任を捨てる
日曜日 私的な計画を捨てる
捨てたアイデアはもう拾わない
こうやって毎日ごみを捨てる事を最優先に暮らしてきたのに
焼却炉が壊れたから燃やすごみを捨ててはいけないと、町が言うのだ
何も産まない、朽ち果てていく町だ
こういう町に選ばれ、こういう町を選んだ
月曜日をどうすればいい
燃やすごみをどうすればいい
月曜日のごみ捨てができない事で日常が崩れていく
月曜日
燃やすごみと不採用の企画を庭で燃やした
思想消防署が火消しに来た
目の前の海からポンプで汲んだ海水を放つ
かつて私が生まれ、かつて親の骨を撒いた海に
生ごみを捨て自分も生ごみとして入水するしかない
週の内たった一日、ごみが捨てられないために
『Tillandsia チランジア』(港の人、2016年)より
*詩集名の「チランジア」について、以下の注記があった――
熱帯に自生するパイナップル科の植物。木の枝、サボテン、岩石、時に電線などに着生し、生育するための土を必要としない。一般にエアプランツと呼ばれる。
◆一週間のうち、たった一日のごみ回収が途絶えるだけで、正確に刻んできた日常が成り立たなくなり、人生そのものも破綻する。
ゴミ回収のスケジュールも、時を重ねて代代(よよ)受け継いできたいとなみや、自由に駆動させて来たはずの我が精神も、お上から監視・管理されていて、勝手な振る舞いは許さないようにできあがっていたのだと思い知る。
あらゆる要・不要の分別(ぶんべつ&ふんべつ)が、実は自分の自由意志で行ってきたことではなかったのかも知れない。
営々と養い、築いてきたと思っていたものが、すべて始末をつけねばならない生ごみだとしたら……