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栗原小巻が加藤剛に捧げたプーシキンの詩[2024年02月06日(Tue)]

◆朝日新聞朝刊のインタビューシリーズ『語る』、俳優の栗原小巻が連載中だ。
今日の第7回は、映画『忍ぶ川』について。
インタビューの最後に、2018年、共演した加藤剛が亡くなり、そのお別れの会で、プーシキンの詩の一節を捧げた、と語っている。
「きらめく陽(ひ)が、沈んだ」という詩句である。

◆この詩は、自由と革命を熱烈に歌い上げた若き日のプーシキン(1799~1837)が、当局に忌避され、1820年都を追放された時(ウクライナに在任中の総督・インゾフ中将に書状を届けるという名目ではあったが)、オデッサを経てキシニョフ(現モルドバの首都・キシナウ)に向かう船上で詠んだ詩である。
その全文を掲げておく。



バイロンの模倣   A・プーシキン
                  草鹿外吉・訳


  きらめく陽が沈んだ。
藍色の海には たそがれのもやがおりた。
 さわげ さわげ おとなしい白帆よ
わが足もとに波わきたたすがいい 陰鬱な海原よ。
  わたしには見える はるかなる岸辺
南の陸地の魅惑に満ちた国々が。
おののきとうれいを抱いて わたしはその地を目指そう
  追憶の思いに うっとりとして……
すると感じとる 双の瞳にふたたび涙のわきあがるのを。
  心はたぎりたち またも沈みこんでいく。
いつものあの幻が わたしのまわりをとびまわり、
わたしはたちまち思い浮かべる 過ぎし年月の狂おしい恋を、
私を苦しめていたことすべてをも 心に懐かしいものすべてをも、
欲望と期待をまじえた心悩ます偽りをも……
 さわげ さわげ おとなしい白帆よ
わが足もとに波わきたたすがいい 陰鬱な海原よ。
飛びゆけよ船 はるけき国までわたしを乗せていけ
うつろいやすい海また海の たけだけしい気まぐれにまかせて。
  けれどただ 霧につつまれたわが祖国の
  いたましい岸辺には いかずにほしい、
  その国で 情熱の炎に
  もろもろの感情が はじめて燃え広がり、
その国で 優しいミューズたちが そっとわたしにほほ笑みかけた、
  その国で うちつづく嵐に早くも
  わたしの失われた青春は 花すぼみ、
その国で うわついた喜びが わたしを裏切り
冷え切った心を 苦悩にゆだねた。
  新しいさまざまの印象をさがし求め、
 わたしはきみらを逃れていく 祖国の地よ、
 わたしはきみらを逃れていく 快楽の中で育てられたものたち、
つかのまの青春のつかのまの友だちよ。
それに きみたち 罪深い放蕩に身をゆだねた女たちよ、
そのために きみたち わたしは愛もなく犠牲にしつづけた おのれ自身をも
やすらぎをも 名誉をも 自由をも 魂をも。
それに わたしがとっくに忘れ去ったきみたち 裏切りの乙女たちよ、
わが青春のうるわしい ひそかな女友だちよ、
さらに わたしの忘れてしまった人びとよ……しかし 心の古い傷痕
あまたの愛の痛手は なにをもってもいやされなかった……
 さわげ さわげ おとなしい白帆よ、
わが足もとに波わきたたすがいい 陰鬱な海原よ……



草鹿外吉『プーシキン 愛と抵抗の詩人』p.98〜(新日本新書、1989年)より。
 

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