
石垣りん「子守唄」[2023年12月16日(Sat)]
子守唄 石垣りん
いちにち
ひと晩
いちまいの闇をかぶって人は寝た。
ふつか
ふた晩
二枚の夜を重ねて
人は夢みた。
十日
百晩
千枚の布団をかける眠りの深さ。
衿カバーをはずすと土がこぼれる
その朝まで。
おやすみ にぎやかに
にぎやかに おやすみ。
『略歴』(花神社、1979年)所収。
高橋順子・編/解説『日本の名詩を読みかえす』(いそっぷ社、2004年)に拠った。
◆「土がこぼれる」布団、つまり土をかけてもらって永遠の眠りに就くまで、人は幾晩寝るのだろう。
百歳の長寿を迎えたとしても3万6千日あまり。
億千という数字が世を賑わしているのに比べて、勘定してみれば、いかにもつましい眠りだ。
だから、せめてその夜には、先回りしている親兄弟、友垣、連れ合い、誰彼みんな顔をそろえてにぎやかに。
あとから行くはずの子や孫・ひ孫も手舞い足踏み鳴らしてにぎやかに。