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木島始「でなおすうた」[2023年12月09日(Sat)]


でなおすうた  木島始


あるものは野戦の地から
わたしたちは帰還した

 古墳の秘密を
 解読する
 ノートへ

あるものは被爆の地から
わたしたちは帰還した

 毒で変質する
 細胞とらえる
 レンズへ

あるものは疎開の地から
わたしたちは帰還した

 下宿の畳へ
 古本の押花へ
 若すぎる遺書へ

 決意の死から
 生きのびかたへ
 銃把
(じゅうは)から
 ペン軸へ
 冬から
 春へ

 長かった凍結地
(ツンドラ)から
 芽生えふく風へ

 軍靴の駆足から
 無理強いされた挙手の礼から
 そのまったくの無我夢中から

 尊敬の微笑みへ
 知識のよろこばしい収得へ
 そしてふたりの愛のむつまじさへ

わたしたちは帰還した はずだった


『千の舌で』(新日本文学会出版部、1976年)より。
日本現代詩文庫『[新]木島始詩集』(土曜美術社出版販売、2000年)に拠った。


◆戦場に駆り出されるのはいつも若者だ。
旧制高校在学中に岡山空襲で焼け出され、広島で被爆した同級生の看護をしたという木島にとって、帰らぬ人となった学徒たちの無念を心のうちで反芻することは、数珠を爪繰るのと同様の意味を持ったであろう。
研究生活や、青春に復帰していたはずの彼ら。

繰り返される「わたしたちは帰還した」――この「わたしたち」には、無言の帰還となったおびただしい者たちが含まれている。
さらに言えば、形見ひとつ遺さなかった人々も「わたしたち」と共にいるのだ。
そのように、彼らの面影と人生への夢を心の中に存在させて「わたしたち」は「でなおす」ことを誓ったはず、なのではないか。

***

信長貴富が混声合唱曲として作曲している(『初心のうた』の第4曲)。
関西学院大学の混声合唱団〈エゴラド〉が2018年12月の定期演奏会で歌っている。若々しい歌声が胸にしみ通る。
「わたしたちは帰還した」が繰り返されることによる高潮へ、そうして結句「はずだった」を、どう歌うか。歌う者、ピアノ、聴衆が息を呑む、すべてはその瞬間にかかっている。

★指揮:鍛治歩実 ピアノ:上野順子
https://www.youtube.com/watch?v=2zdPjHJwANU


 
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