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鷹取美保子「わたしの いとしい もの」[2023年12月06日(Wed)]


わたしの いとしい もの   鷹取美保子


かけられた引き戸錠。びねつのあるからだ。まくらもとの吸い飲み。よみかけのお伽噺。ふわふわの毛布。がらすにはりついた守宮。えんがわの冬の光。ちちがかってくれる森永の飴。たまにうたうようちえんのお帰りの歌。ころがりつづけるビー玉。めをとじるセルロイド人形。ひとりあやとりの赤い毛糸。ほうりだした貼り絵。ゆきみしょうじからみえる風。だれかの囁き、
「じゃあ、またね」

あけられたクレセント錠。てんしのはしごから降りてくる光。ゆれる猫じゃらし。ていりゅうじょに並ぶ人。となりまちまでの旅。まっすぐにたつ墓石。そのしたにねむるおだやかな骨。くさのうえをあるく天道虫。ははがのこしたいっぽんの杖。むすめがくれた頬紅。だしわすれた葉書き。くずれおちそうな本の山。たわわにみのる酢橘の木。ついのひの、だれかとの約束、
「百年後に、じゃあ、またね」


『骨考』(土曜美術社出版販売、2022年)より


◆前半の連は、病気がちで室内で過ごすことの多かった幼い日を取り囲んでいたものたち。

後半は「ついの日」、目に映るいとしいものたち。

いとしいものたちを数え上げられるのは、皆に愛され、それゆえ「わたし」も世界を愛してきたからだ。

◆後半の連、「死」はもとより親しく身のまわりにあった。
光を浴びてゆれる猫じゃらしも天道虫も、土から生まれ、またそこに還るものたち。
地上を吹く風と上方から注ぐ光とを「わたし」と同様、受けてきたものたち。

◆「じゃあ、またね」というだれかの囁きに、「百年後に、じゃあ、またね」と約束のことばを返す。
別れが、となりのまちまでの、ちょっとした旅。そう観じる者にとっては、百年もあっというまだ。




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