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長田弘「この世の初めから」[2023年11月18日(Sat)]

◆ガザのシファ病院の深刻な事態の一端が報じられた。
未熟児たちやICUにいる患者たちの命が次々となすすべもなく奪われてゆく。

【CNN 2023/11/18】
集中治療室の患者の大半死去、イスラエル軍突入のガザ最大の病院
https://www.cnn.co.jp/world/35211721.html


◆危惧されていたことだが、予測をはるかに超える虐殺が行われているのを、遠巻きに座視するほかない世界。
見守る誰もが、吞み込んだ鉛のようなものが膨れ上がって喉を塞ぐのではないかとすら思う。

それでも、鉛の錘のおかげで、われわれのたましいがフワフワ飛んで行ってしまわずにすんでいるのなら、まだましなほうだ。

*******



この世の初めから  長田弘


何もなかった。大地も、
冷たい波も、砂もなかった。
奈落の淵があるばかりだった。
草も生えていず、ひとは、
息もしていず、心ももたず、
いのちの温かさも、すがたも、影ももっていなかった。
最初にはじまったのが戦いだった。
戦いは運命を、運命は人生を、
人の子らにあたえたが、幸福は
あたえなかった。神々は、
むごい予言しかのこさなかったのだ。
生まれくるものは、たがいに
戦いあい、ひとの子らは
殺しあうだろう。狼は走りだし、
翼ある蛇は、死者たちを翼にのせて、
空の下、野の上を飛ぶだろう。
(ほこ)の時代、剣の時代がつづくだろう。
それから風の時代がきて、
苦悩の時代がはじまるだろう。
どう祈るか、知っているか。
どう供えるか、知っているか。
どう生贄
(いけにえ)を捧げるか、知っているか。
どう語るか、歴史の語り方を知っているか。
誰が、わたしたちのことばを、
世を騙
(かた)るための道具にしたのか。
黙って、樫
(かし)の薪を積むのだ。
悲しみではちきれそうな胸が、
火で焼かれるように、
心の憂いがとけるように。



『幸いなるかな本を読む人』(毎日新聞社、2008年)所収。
『長田弘全詩集』(みすず書房、2015年)に拠った。



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