「らんまん」――女たちのリレー[2023年09月25日(Mon)]
3メートル以上もありそうなサボテン、やがて咲く花を天に差し出すようにして立っていた。
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◆朝のNHK連続テレビ小説、「らんまん」が最終週に入った。
東京郊外に妻・寿恵子が広い土地を買い求め、植物いっぱいの園にする夢を語る。
そのあと、一気に時計が進み、1958年、ドラマのモデル、牧野富太郎(ドラマの中では槙野万太郎)が亡くなった翌年の話に飛ぶ。今週の物語全体の枕として置かれた場面のようだ。
◆槙野植物標本館に藤平紀子(宮崎あおい。ドラマの語り手でもある)という女性が訪ねて来た。
遺品を片付けるアルバイトと思ってやってきたのだが、槙野の娘・千鶴(ドラマ最初で祖母役だった松坂慶子が万太郎の娘として再登場)から、メモや日記を手がかりに40万点にも及ぶ標本の分類・整理をする仕事と説明されて当惑する。
仕事の重大さを知って、とても引き受けられないと思った紀子は、バイトの話を断って帰ろうとする。
そこからの演出とセリフに引き付けられて、最後まで観てしまった。
◆帰ろうとした紀子の足を、風で揺れる笹の葉が引き止めた。
(画面はスエコザサの葉にピントが合わせられる)
呼び止められたように思えたのだ。
紀子は標本館に引き返して千鶴に言う――
【紀子】「この標本、守ってきたってことですよね、関東大震災、それから空襲も……。
20年3月、東京大空襲……私、17でした。覚えています。どんなに恐ろしかったか。
――あの、地獄の中、炎の中を、ご家族の皆さんが、これだけの量を守り抜いて来たってことですよね。」
(震災による大火のシーンが挟まる:「火が移る。捨てろ」と言われても標本を守り抜こうとする万太郎――「これは残すもんじゃ。この先の世に残すもんじゃ!」)
【紀子】「私も戦争を生き抜きました。次の方に渡すお手伝い、わたしもしなくちゃ。」
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◆ドラマの作者長田育恵は井上ひさしに師事した人という。
井上ひさしのメッセージ「後に続くものを信じて走れ!」(『組曲 虐殺』)が、紀子のセリフに脈々とに息づいている。
寿恵子・万太郎の生き方、彼らが守ろうとしたものを引き継ぐ仕事と腹をくくった紀子の、「次の方に渡すお手伝い、私もしなくちゃ」。観る者も背中を押されずにいない。
◆最終週のサブタイトルは「スエコザサ」。
破天荒で周囲に迷惑かけ通しの男を中心に据えたTVドラマと決め付けて、観ずに過ごしてきたが、「スエコザサ」をめぐる良妻賢母の美談に済ませない描き方に引き込まれた。
今日の冒頭には、寿惠子の「私、やり遂げました」というセリフもあった。
”夫を支える妻”という道徳教科書の人物ではなく、自分の背骨を持った個人として生き抜き、次へと引き継ぐ――そのような女たちのリレーを太い線で描いていると気づかされた。