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辻征夫「かぜのひきかた」[2023年09月04日(Mon)]

◆新型コロナが5類に移行とかいって、政府が手抜きを糊塗して久しいが、流行は収まっていないらしく、身近なところからも罹ってしまったという話をけっこう聞く。
にも関わらず、定点観測とかで感染状況は想像の届かぬ彼方にあって、メディアも興味を失ってしまった。
かつて世間を覆い尽くした予防態勢がすっかり解除されても、病気が消えてしまったわけではないので、疾患持ちの者は枕を高くして寝られない。

◆のどの痛みを感じて2日の間、足の運びまでも慎重にしていたら、どうにか収まった。その間も、こなさねばならない事が減るわけでもない。
もしかして、という不安に襟元をなぶられながら、イザという時に自力でやりくりせねばならない事態は依然として続いている。


*******


かぜのひきかた  辻征夫



こころぼそい ときは
こころが とおく
うすくたなびいていて
びふうにも
みだれて
きえて
しまいそうになっている

こころぼそい ひとはだから
まどをしめて あたたかく
していて
これはかぜを
ひいているひととおなじだから
ひとは かるく
かぜかい?
とたずねる

それはかぜではないのだが
とにかくかぜではないのだが
こころぼそい ときの
こころぼそい ひとは
ひとにあらがう
げんきもなく
かぜです

つぶやいてしまう

すると ごらん
さびしさと
かなしさがいっしゅんに
さようして
こころぼそい
ひとのにくたいは
すでにたかいねつをはっしている
りっぱに きちんと
かぜをひいたのである

辻征夫『船出』(童話屋、1999年)より


◆熱が上がり始める前の薄ら寒く気持ち悪い感じをほうふつとさせる。
医者に「風邪です」と言ってもらってホッとする可笑しさは、誰しも経験がある。

一方で、「病は気から」をネタにした小咄を装って、暗示にかかりやすい人間のどうしようもなさを諷してもいる。

さらには、複雑な内面を抱えた、人間という複雑な生き物の心底にそろりと降りてゆく感じもある。

やさしい言葉で、じつは凄みもある一篇。




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