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谷川俊太郎「音楽の中へ」[2023年05月08日(Mon)]


音楽の中へ   少年5  谷川俊太郎


それからぼくは音楽の中を歩いて行った
人影はなかったが
広場はいのちに満ちていて
その下に深い海をかかえていた

見えない木々の一生が過ぎてゆき
罪は許される予感におののき
王子と農奴の記憶がまじりあい
星々の卵がびっしり空をうめていて

ぼくのからだは透き通り
桃色の内臓の奥のぼくの気持ちは
宇宙の果てまでひろがって
その先へとこぼれ落ちた

そしてぼくは帰ってきた
アンプの真空管のほのかな光をたよりに
そこに宿っているものもまた
ぼくの生きるあかしだと知っているから


『私(わたし)』(思潮社、2007年)より



◆連休中、TVが各地の人出をこれでもかというほど流し続けていた。
行楽地や街頭で取材する人間もスタジオでコメントする人間も、「絵」がないと体を成さないTVの世界で、正直なところ何を考えているのだろう。

◆上の詩は、そうした喧噪や狂騒とは無縁だ。
特に第一連。
流れている音楽は街に流れているのではなく、「ぼく」の心の中で流れているように思う。
人影はないのに、広場があり、そこをぼくはゆっくり歩んでいく。

「広場はいのちに満ちていて/その下に深い海をかかえていた」という2行が限りなく豊かだ。





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