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禿慶子「かもめ橋」[2023年03月07日(Tue)]


かもめ橋  禿慶子


夕方かもめ橋を渡る
誰がつけた名前なのか
海を飛ぶ鳥の清潔感もないのに
それでも
水鳥たちが群れて
流れに揺れているのを見ながら
今日の無事を思い
足を速める場所なのだ

昼間 橋の上をかもめが越えていった
ペーパークラフトの羽の間から
肉感的な胴体を見せ
その日川は
小さな炎をたくさん乗せ
光りながら流れていた

かもめ橋を
昼も夜も白い車が通り過ぎる
前庭の芝生に
赤い光を降らせ
建物の横に消える
橋の上が急に静かになる

夕方橋を渡ると
薄墨色の水が逆流している
カラスが欄干から
建物のファサードを切り
高速道路の陰に消えた
足をとめ鳥の残した予感を消した
それでもかもめ橋は
わたしの親しい場所になった


『しゃぼん玉の時間』(砂子屋書房、2016年)より
 
◆最初にこの詩集を手にしたときに付箋を付けて置いたのがこの「かもめ橋」だった。
恐らく横浜の海近くの、かつて通ったこともある橋ではないか、写真も撮ったかも知れない。それが見つかったら取り上げてみよう、と考えていた。
ところがそれがなかなか見つからない。

◆ネットで探してみたら、もっと手前、海からはずいぶん離れたところにも「かもめ橋」があった。横浜市戸塚区。阿久和川に架かる小さな橋だ。ストリート・ビューで眺めると、上に述べたものとは別の季節の記憶がぼんやりと浮かんでくる。かつての職場に近い橋だから渡ったことがあるように思えるが、この詩に描かれた「かもめ橋」のイメージではない。

横浜港では横浜駅の東、そごうデパートからベイクォーターに渡る橋も「かもめ橋」と呼ぶようだが、モダンすぎるし、何より歩道橋だから、「昼も夜も白い車が通り過ぎる」わけにはいかない。
その上、ここは実際に歩いたことがない。
本牧寄りにも「かもめ橋」はあるようだが、この詩のイメージに一致するかどうかわからない……

◆あれこれ考えているうちに、この詩の「かもめ橋」は、この詩と、この詩を読んだ人間との間に架かっている橋のように思えてきた。

日常の風景の一つであり(第一連)、逆に幻想的な雰囲気もまとい(第二連)、抽象的な都市の時間と空間の象徴のようでもあり(第三連)、ヒュッと視界をよぎる鳥が心を波立たせ(第四連)、そうして再び静まるにつれ、これまでの「かもめ橋」の画像にもう一枚の「かもめ橋」の画像が重ねられて定着する――一日がそのようにして定置されることで、明日ふたたびこの橋を渡るしたくを終える。

だれもが、そうした橋を自分と何か(誰か)との間にに架けて生きている、そう気づかせてくれる詩だ。


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