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禿慶子「窓」[2023年03月04日(Sat)]


窓  禿慶子


開かない窓越しに話をする
今は目が耳だ
さして意味もないことばを
思い詰めたまなざしで聞こうとする
ガラスに重ねた掌が冷たい

列車はつかの間の今を
過去に運ぶ
重なった光がにじむ遅い夜の道も
ホテルの 薄いサイドテーブルのあかりも

開かない窓の外側を
使い捨ての今だけが流れていく
たとえば 過去のあるとき
ひなびたホームの先端に立って
小さくハンカチを振るひとがいたとしても


『しゃぼんだまの時間』(砂小屋書房、2016年)


◆卒業シーズンだ。
就職や進学で故郷を離れる人たちに、あわただしい別れが訪れる季節でもある。

この詩は、夜行列車が出郷を演出した時代のものだろう。
見送る者・旅立つ者が冷えた窓に掌を重ねる――そうした、忘れることなどありえないはずの「いま」という時間をも、あっさりと「過去」へと列車は運ぶ。

その先にあるはずの未来は、この詩ではあえて捨象されている。
忘れてしまったことや、忘れられてしまった者への哀惜が詩人の胸中に溜まっているからだろう。

「沁みる夜汽車」というTV番組がある。いつから始まったか知らないが、再放送も含めて繰り返し流れているようだから、相応に視聴者の共感を得ているようだ。

上京する夜汽車で隣に若い異性が乗り合わせた、などという思い出話に、頬がゆるんだり赤らんだりする視聴者もいるに違いない。

◆気になるのは、追想番組が隆盛を迎えているのだとしたら、その底流にはどんな時代の気分があるのだろうということだ。

だいぶ前、「プロジェクトX」という番組があった。「沁みる夜汽車」は、その流れの延長上に、より内向きで徹底的にプライベートな物語をつむいでいるように見える。
開いてゆくのではなく、ひたすら閉じてゆく世界だ。

◆縮小と衰退の時代をどう生きるか――縮小や撤退しながらも開いてゆく、というのがいいんじゃないかとひそかに思ってはいる――ジェット機や新幹線の閉じた窓ばかりの時世に、SNSの液晶画面が縮小の時代の「開いた窓」たりえているのか、分からないけれど。




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