
俳優座劇場「聖なる炎」[2023年03月01日(Wed)]
◆俳優座劇場「聖なる炎」を観た(俳優座劇場にて3月4日まで)。

サマセット・モームが二つの大戦の狭間、1928年に書いた戯曲を、小田島創志の新訳、小笠原響の演出で。
登場人物は八名。
ロンドン郊外の大きな屋敷、事故で半身不随の兄モーリスの突然の死をめぐり発せられた看護婦の言葉から、思いもしなかった人間たちのさまざまな愛の姿が浮かび上がってゆく……
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◆タブレット夫人(小野洋子)と他の人物たちとの間に交わされる言葉がそれぞれの人間像を浮かび上がらせる。
見えて来るのは、いくつもの愛のかたちとして重なり合っており、またそれぞれに固有で特別の意味を持っているということだ。表面的には一方通行のように見える愛も、実は本人の気づかぬ形で受けとめられていたり、あるいは最終的により深い意味を与えられて受けとめらてゆく。
ある一人の中にある愛も一種類ではない。自分では意識していない愛が表に姿を現す場合もある。
従って、人物の組み合わせの数以上の愛のかたちがあることを目の当たりにする。
その要に存在するのが小野洋子演ずるタブレット夫人だ。
第三幕、夫人の母親としての我が子への愛情の深さに胸打たれるうちに観る者は事件の核心に導かれつつあることを意識し始めるが、果たしてそれでいいのだろうか?と自問しながら舞台を注視していた。危ぶみながら視ているこちらにも、相応に積み上げてきた生の時間がある。自問しながら視ているのはそのためだが、果たして自分だったなら、と思わせるのは、夫人を演じる役者さんの言葉の力なのだということをつくづく感じた。
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◆アフター・トークがあった。
左から、小野洋子[タブレット夫人]、加藤義宗[ハーヴェスター医師]、増田あかね[女中アリス]の皆さん。
吉見一豊さん[リコンダ少佐]。もと警察官という設定で、事件の真相に迫る役回りとなる。
演出の小笠原響さん。
プログラムに俳優座との深い関りを綴っていて、胸にしみた。