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吉行理恵「運ぶ」三篇[2023年02月28日(Tue)]


運ぶ 三篇  吉行理恵


鳥は舞い上がります
ふいに嘴でくわえられ
青一色の夢の頂上まで導かれてゆくのは 少年です
やがて銃声が 闇のなかへ消えてゆきます

   *

朝を運んでくる軽い足音は
もうすぐ聞えてきます
舗装道路を引っ張られてゆくのは落葉
風に出遇い 黒い時間は砕けてしまいます

   *

柔らかい頭に頭巾をかぶせられて
夢を見ている赤ん坊を背負い
私の渡る丸木橋を
痩せた腕で支えているのは私です


『吉行理恵詩集』(新装版 晶文社、1997年)より

吉行理恵(1939〜2006)は戦時中、疎開した経験を持つ。
「運ぶ」と題されたこれらの詩には、幼い心身を領した死のイメージが色濃く出ている様に思う。
そうしてそれは、戦火の現実が幻想に隈取られる形で表現される。

◆一気に天頂へと拉し去られる少年。銃撃から救われたのか、それともすでに地上の者ではなくなっているのか……。

◇朝をもたらす者の姿は落葉の動きでその存在をうかがい得るのみで姿は見えない。だが、その力は圧倒的だ。一気に闇の塊を破裂させるようにして朝をもたらす。

◆三つ目の詩、赤ん坊を背に丸木橋を渡って安全地帯に逃れようとする「私」。
ここで運ぼうとしているのは、あどけなく眠る幼子の命だ。
だが、渡るべきその橋を支えているのが私自身の痩せた腕であるとは!
生きのびることがとうてい不可能である、という現実の真っ只中に読者を引きずり込む。




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