岩P攝「逆瀧」(さかさだき)[2023年02月27日(Mon)]
さかさだき
逆瀧 岩P攝(いわせ せつ)
私は見た
巨大な瀧が 逆(さかさ)に 昇り立つのを
月光のなかを
天へむけて 落ちてゆくのを
魂の群が
青く耀(かがや)きながら 地上から昇り立つのを
みな
この世で犠牲(いけにえ)になった 生きものの
魂の群が
今
◆標題作として詩集『逆瀧』(昭和出版、1981年)の最後を飾る。
鎮魂と祈りの詩だ。
◆瀧を凝視し続けるうちに、突然、全く逆方向への動きの中に自分がいると感じた瞬間があったのだろう。それは、ひとつの啓示のように全身を刺し貫く。
戦に生を断ち切られた者、人間の身勝手さの犠牲となったあらゆる動植物たち、それらが大きな瀧に合流し、月の光を受けて荘厳に耀きながら昇ってゆく。それを「天へ向けて 落ちてゆく」と表現した。
大きな円環の中をわれわれが光の粒の一つとして生まれ、死ぬ。
無窮動の循環の中に〈落ちてゆく〉。それは〈昇り立つ〉ことでもある。
上下の違いなど、この動きの中では意味を持たないからだ。