
岩P攝「骨がある」[2023年02月25日(Sat)]
骨がある 岩P攝(いわせ せつ)
もう 何もない
君は そう思っている
だけど 君
山がある 海がある
山はない 海も見えぬ
君は そう言う
だけど 君
空がある
空か
閉じられていて空は見えぬ
不仕合わせな君よ
空さえなければ 神がある
神さえ 見えぬ
神さえ見えなきゃ
肉がある
肉は涸れた
君 肉は涸れても
骨がある
骨は ある
君は やっと 肯(うなず)く
骨があれば
肉が見える
肉が見えれば
神は来る
神が来れば
雲が浮かぶ
雲が浮かべば
空がある
君は 首(くび)を横に振らない
縦にも 振らない
だけど 君
空がある!
『逆瀧(さかさだき)』(昭和出版、1981年)より。
*前回の詩「右腕」同様、旧字旧仮名の原詩を、現代の字体・現代仮名遣いに改めてあります。
◆敗戦後、かろうじて生き残った者同士の会話であるとも、一人の男の自己内対話であるともとれる。
どちらにせよ、痩せさらばえ、絶望している者と、肉落ち骨が浮き出るほどになっても、まだ死なずにいることに希望を見出そうとする者。
「閉じられていて空は見えぬ」――捕虜として幽閉されているのだろう。
裁きが下るのと、命終を迎えるのとどちらが早いか知れたものではない。
だが、たといそうであるとしても、想像の力で時計の針を戻すようにして、肉をまとい、神のまなざしを思い浮かべるならば、そこに雲が湧き起こり、空もたしかに映って来るはずではなかろうか?