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小島力「秋の城」[2023年02月22日(Wed)]

小島力(ちから)詩集『わが涙滂々』(西田書店、2013年)には、反原発運動に関わって生きてきた詩人が折に触れ発表してきた詩群が並ぶ。福島県葛尾村で郵便局員として働きながら詩作を続けて来た人が放つ言葉の矢弾である。


秋の城   小島力


もはやそれは
現代を踏み従えてたちはだかる
城砦ではなかったか
断崖のようにそそり立つ
コンクリートの隔壁は
戦国時代の巨大な石積みに
なんと似ていることか
コロをかって切り石を動かし
モッコで土砂をかついだ
かつての民百姓が
今 原発建設現場で
コンクリ板枠を高々と組み
果てしない浪費のように生コンを送りこむ
作業に追われている

四囲を圧する石垣の高さは
外敵の侵入を拒むよりも
城砦の内部で絶えず噴き出す
膿みや血糊を外へ漏らさないための
防壁であったろうか
その昔 城内で繰り広げられた
陰謀や報復 刃傷や誅殺が
決して民衆の眼に
さらされることのなかったように
熱交換器や圧力容器や燃料棒に
うがたれた無数の亀裂やピンホール
原子炉建屋に充満する放射性物質を
その目で見た者はいない

故障修理や定期点検作業に投入され
被曝の限度を超えて使役される人間は
数知れない
無抵抗にスクラップされた労働者は
付近の病院をタライ廻しされ
次々と死んでいった
かつて築城の機密に通じた土工たちが
人知れず消されたように
物言わぬ人柱には
いつの世にも周到に用意された
地下牢がある
原発の真下
地底の貯蔵タンクには
濃縮廃液がたたえられ
城館の来歴にまつわる呪いのように
どんよりと静まりかえっている

それが松林の上であれ
穂を垂れた稲田の向こうであれ
あるいは役場庁舎の屋上からであれ
赤白だんだらの排気筒が見える限りの
町々や村々は
巨大な電力資本の支配の枠組みに
すっぽりと囲い込まれた
交通の要衝に城を構え
経済の中枢を握って君臨した
戦国の武将たち
そびえたつ天守閣の格子窓からは
何萬石もの領地が
一望に見渡せたであろう
だが歴史の変遷は
城門の白壁を崩し土台石を風化させる
かつて難攻不落を誇った城砦は
今 訪れた観光客が
気まぐれに足をとどめる
旧時代の遺跡でしかない
苔むした石垣に
真っ赤に紅葉した蔦を這わせて……

いつの時にか
この巨大な原子炉建屋が
累々と崩れ落ち
苔むす日があろうか

秋――
太平洋の白波が打ち寄せる海岸線に
整然と立ち並ぶ
東京電力福島原子力発電所
もはやそれは
単に放射性物質にまみれた
発電施設と言うにとどまらない
民衆を支配し
経済の中枢に腰をすえた
現代の城砦に他ならぬ
透明な秋の陽差しを浴びて立ち尽くす
白亜の巨大なタービン建屋
その中で唸りをあげて
回転するものは
時代の矛盾である

  (一九八三年作・十月社刊「83原水禁」所載)



◆40年前にこれが詠まれたことに驚く。この「城」を築くために汗を流し犠牲となった人々への碑銘として刻され、同時に原発災害への衷心からの警告でもある。

《いつの時にか/この巨大な原子炉建屋が/累々と崩れ落ち/苔むす日があろうか》

――無念なことに、これは現実のものとなってしまった。一点、「苔むす日」を迎えることは到底不可能な状態で、ということを除いて。
そればかりではない。詩人自身が原発難民としてふるさとを離れざるを得なくなったのであった。

◆『わが涙滂々』を読み始めてから、小島力氏が昨2022年2月24日に永眠されたことを知った。奇しくも誕生日を迎えた朝であったという。享年八十七。

次の記事にその生涯について詳しく録されている。多くの人に読んでいただきたく、URLを転記して置く。

【47NEWS 2022/4/17】
「故郷は帰るところにあらざりき」福島の原発に建設段階から一貫して反対した87歳の詩人が最後に書き残した情景 原発事故が山の暮らしを奪った
https://news.yahoo.co.jp/articles/018c7f750729a2a0d85b48ff384385a157d87e0b





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