
『Peace & Edu』〈その3〉伊藤真氏の言葉[2023年02月08日(Wed)]
◆『Peace & Edu』第30号の記事、「生徒指導提要」に「子どもの権利条約」が反映されるに至ったことを評価しつつも、見失ってはならない点を示してまとめとした。
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人権の砦として教育が担うもの
国連などが長い時間をかけて広げて来た基本的人権を保障する条約にようやく追いついて来た感がある。だが文科省も各地の教育委員会も是正に向けた動きは全く鈍い。
伊藤真弁護士が日本国憲法で一番大切なこと、それは「個人の尊重」だと、言い切っていた(朝日新聞、1月23日朝刊「仕事力 2」)。
多くの若者を法曹界に送り出して来た伊藤氏だが、大学3年の時に友人のアメリカ人から「日本の憲法で大切なことは何か」と問われ、一言で答えられなかったことが恥ずかしく情けなかったと述べている。必死で憲法を学び直すきっかけとなった。
そのようにして弁護士になった氏の念頭に常にあったのは「憲法が味方として存在する」ことだった。
教育に関わる大人の誰もが、この二つのメッセージを子どもたちに発信し続けなければ。
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◆前の記事で短く触れたように、旧2010年版「生徒指導提要」では「規範意識」という用語が頻発されていた。それは、大人が望ましいと考えた子ども像だった。
すなわち、大人や社会に意見を述べる背伸びをするよりは、まず年長者の示す社会規範や道徳的価値に身を添わせ学業専心を第一として有為な人材であることを目指せ、と。
世の中の出来事に問題意識を持つことは当然に批判精神を育てることになるはずだが、それは子どもらしくない跳ね上がり、とみなす保守的な人間観が底流にあった。
それが、今次の改訂版「生徒指導提要」では、少なくとも表面的には姿を消した。
子どもたちの権利を擁護し、意見表明を尊重する以上、それと矛盾する発想は克服されねばならない。
「子ども基本法」が少なくとも理念としては「子どもの権利条約」をふまえ、その実現を日本において目指すことを表明し、「生徒指導提要」として学校現場や教育行政に浸透させようとしていることは、評価して置く。
◆しかし、高い理想を掲げても、文部科学省や、各自治体の首長および教育委員会が具体的な施策で実現を目指す動きが鈍い現状が依然としてある。
理想を絵に描いた餅で終わらせないためには、彼らをチェックし叱咤する役を教職員や市民が果たさねばならない。そのためには、憲法が保障する人権の視点に幾度でも立ち返らねばならないと思う。また、同時に「子どもの権利条約」全体を味読する必要もある。
地球上のさまざまな問題を、自分事として大人も若い世代も共有する上でも有用だろう。
◆そうした折に、上に引いた伊藤真弁護士の言葉(朝日新聞「仕事力」1/16〜2/6の毎日曜掲載)は胸に響くものだった。
インタビュー記事の最終回である第4回(2/6)は、次のようなメッセージで結ばれていた。
どんな職業に就いても、理想を忘れない。
それが、社会の幸せの総量を増やすことにつながっていくに違いないと信じています。
〈幸せの総量を増やす〉――かみしめたい一言だ。