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谺雄二の映画&ハンセン病をめぐる講演[2023年02月04日(Sat)]

◆茅ケ崎でピースカフェちがさき主催の映画と講演の集いがあった。

映画はドキュメンタリー「谺(こだま)雄二 ハンセン病とともに生きる〜熊笹の尾根の生涯」(大塚正之監督。43分ほど)である。

映画では『死ぬふりだけでやめとけや 谺雄二詩文集』(みすず書房、2014年)を編んだ姜信子氏が語っていた。
手元にあるはずの同書、昨日探したが、どこぞに埋もれていて発見できず。映画で登場した編者から、早く見つけてしっかり読みなさいと宿題を課せられた気分。


◆講演は、国立ハンセン病資料館の黒尾和久氏が、谺雄二の宿願であった重監房資料館(草津の栗生[くりゅう]楽泉園内に2館目のハンセン病資料館として2014年に開館)を中心に、ハンセン病と人権についてズッシリの一時間半。
国の施策、患者の闘い、国の施設としてようやく実現した資料館をどう後世に活かしていくか、われわれ自身の人権感覚の試金石ともなるハンセン病への向き合い方……。講演もまた多くの宿題をドサッと肩に載せられた気分。
 最初の国立ハンセン病資料館は、多磨全生園(東村山市)に2007年開館。

◆会場は100名近く入っていただろうか、ほぼ満席。茅ケ崎の人たちの平和や人権に対する市民の取り組みはとても熱心だ。

DSCN0641.JPG
帰路、1号線(東海道)の松並木の上に真ん丸な月が冴え冴えと懸っていた(月齢は14と思う)。

◆黒尾氏が、丹念に再現した重監房の写真を示しながら、冬は零下20度にもなるという、過酷な、事実上の懲罰房であったと語ったことを思い出し、ブルッと震えた。重監房が使われていた1938〜1947年のわずか9年の間に収容された90名余の患者のうち実に23名がここで亡くなったという。




小野十三郎「日本の新聞」[2023年02月04日(Sat)]


◆昨日と同じ小野十三郎の1952年の詩集『火呑む欅』所収の詩をもう一篇――



日本の新聞  小野十三郎


夕暮れ
まだ灯(ひ)のいらぬ街の
新聞売場に荒縄でしばられた
夕刊の束がどさりとつく。
待ちかまえていた子供たちは
それを地べたでほぐして
一枚々々すばやくおりたゝみ
白木の組立台に
社名の耳をそろえて
きれいにならべる。
そしておもしの小石を
その上にのっける。

ビルから吹きおろす風に
十数種類の日本の新聞がはたはたとそのへりをひるがえす。
それは何ともいえないかなしい音だ。

それはかなしい音だ。
千を越す日本の新聞が
どれもこれもただ一つのことをしかうたわずうたえぬ日本の新聞が
戦争の匂いのする日本の新聞が
それでもまぎれもないわれらの日本語で縦に組まれた日本の新聞が
いま夕ぐれのこの時刻に
われらが祖国のいたるところで
はたはたとその青白いへりをひるがえしている。
北海道の果でも。九州の街々でも。

私は見た。
舗道に散った
刷りたてのその一枚が
風をはらんで
巨大な生物(いきもの)のように起ち上ったのを。
それは横断道路をなゝめにつっ走り
ロータリーの
枯れ銀杏(いちょう)の根っこに
二枚折れにへばりついたと見るまに
たちまち
中天に舞いあがった。



日本詩人全集26『吉田一穂 高橋新吉 小野十三郎』(新潮社、1968年)より。

◆描かれているのは、敗戦後まだ数年という頃の街の風景だろう。
新聞売りの少年たち、風を受けてひるがえる薄っぺらな新聞。
その音がかなしいのは、復興途上だからではない。
国中にある新聞のどれもこれもが「ただ一つのことをしかうたわずうたえぬ」からだ。
それは具体的には占領軍による報道統制の結果なのだろうが、検閲によって「うたわずうたえぬ」のは、同時に「うたえずうたえぬ」でもあるのではないか。

規制が日常になると、強制というお仕着せになずんだ身体は、つま先から頭のてっぺんにいたるまで、自分のためだけに誂えられた帽子や衣服であるかのように思えて来る。下着に至るまであてがわれたモノであったはずが、肌身離せぬものと化す。

◆真実を伝えることをやめた新聞は、それでも刷られ続ける。
戦後の風景のはずなのに、戦時中も全くそのまんまであった。そのことを忘れているのは人間の方だ。
風をはらんだ新聞が「起ち上」がり、「つっ走り」樹に「へばりついたと見るまに」「中天に舞いあがった」のは、死に体となったジャーナリズムへの苦悶、怒り、抗議なのではないか。

◆目下の国会審議を報じるメディアもまた、はたはたと「かなしい音」を発しているのではないか。



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