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石川逸子「帰り道」[2022年08月05日(Fri)]


帰り道   石川逸子


小学校の帰り道
香山さんと二人
さまざまな道を探し探し 歩いた

気に入った家をみつけて
そこに住むひとびとを空想し 語るのが
二人の遊び

「あの蔦がからまる家には
胸の病で婚約がこわれた 女の人がいて
咳しながら大きな瞳で 庭をじっとながめてるわ」
おませな香山さんは言い

「あそこの洋館 親が死んで
お祖父さんに育てられている少年がいるの
イギリスからお母さんの里にもどってきたのよ」
わたしは言い

(少年とわたしはそのうち この家の前で
バッタリ会って親しくなり
少年のお父さんが描いた 海の絵を見せてもらうの)
心で想って口には出さなかった

ランドセル背負って
いつもドキドキしていた 尋常小学四年生

ほどなく「国民学校」と変わり
真珠湾攻撃がはじまる

三年後 女学生になってほどなく わたしは疎開し
香山さんの家は焼かれた
爾来 消息を聞かない
(二人の物語はまだ未完のままで)



『詩集 ロンゲラップの海』
(花神社、2009年)より


◆どの家にもそこに住む家族の物語があるということ――少女たちの想像を可能にしたのはその当たり前のことだ。
学校に通う日常から思い切り想像を羽ばたかせる――現実の人生は、紡いだ物語にあるときは近づき、あるときは全くそこからそれてしまう。成長と環境の変化によって中断がはさまれることがあっても、再会のあかつきには、空白を埋めて余りある別様の物語を語りあうことも出来ただろう――生きてありさえすれば。

戦争がもたらすのは破壊だけではない。時間を断ちきられた巨大なガランドウに人間を置き去りにする。




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