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辻征夫「遠い花火」[2022年07月15日(Fri)]

DSCN5784.JPG

向日葵(ひまわり)。最近流行の、丈の低い種類。

*******


遠い花火  辻征夫

  
唇には歌でもいいが
こころには そうだな
爆弾の一個くらいはもっていたいな
ぼくが呟くと
(ばくだんって
あのばくだん?)
おばさんが首を傾げて質問する
そうですよ ほかにどんなばくだんがあるのですか
こころに
爆弾があって
信管が奥歯のあいだにあって
それをしみじみ噛みしめると
BANG!
ぼくがいなくなってしまうんだ
(いいわね そのときはわたしも
吹きとんでしまうんでしょ?
遠い花火のように)
おばさんとぼく
ぼくが少年のときの海と空を
同時に思い出す
荒れ騒ぐ波のうえを
鷗が数羽とんでいる
はやくあのこのところへ行かなくちゃと
息はずませてボートを漕いでいる
若いおばさんもいる
おばさんには
村の道にぼつんと立っている
たよりない子供の影も見えていて
その子がやがて
〈ボートを漕ぐおばさんの肖像〉という
いくつかの詩を書くのである



★1991年の『ボートを漕ぐおばさんの肖像』として書かれた詩群の一つ。
谷川俊太郎編『辻征夫詩集』(岩波文庫、2015年)に拠った。


◆少年の夢――「こころに」「爆弾」をもっていること――そうして「それをしみじみと噛みしめ」爆発させて「いなくなってしまう」こと、だという。
みんなをびっくりさせるだろうキケンでユカイな夢は、真っ黒な世界をほんの一瞬でいいから光の中に浮かび上がらせて変えたい、自分の全存在を賭けてでも、という切実な願望である。

ここで大事なのは「いいわね」と言って全面的に賛成してくれる「おばさん」の存在だ。
「ぼく」の夢は受けとめ手がいてくれることによって、魔法の杖で輝きを増し、想像の翼を得て、過去をすっかり作りかえることさえ可能にする。

無論、その「おばさん」は実在の人でもいいし、「ぼく」のこころの中に棲んでいる仮想の「おばさん」でも構わない。大事なのは「ぼく」のつぶやきに耳を傾けてくれる存在であることだ。



谷川雁「雲よ」[2022年07月15日(Fri)]

DSCN5778.JPG
横浜を流れる大岡川、弁天橋のたもとで。


*******


雲よ  谷川雁

雲がゆく
おれもゆく
アジアのうちにどこか
さびしくてにぎやかで
馬車も食堂も
景色も泥くさいが
ゆったりとしたところはないか
どっしりした男が
五六人
おおきな手をひろげて
話をする
そんなところはないか
雲よ
むろんおれは貧乏だが
いいじゃないか つれてゆけよ


松原新一・編 
谷川雁詩文集『原点が存在する』(講談社文芸文庫、2009年)より


◆一つ所に留まって居てはならない、と思い込んでいるところが人間にはあるんじゃないか。
水さえあればどこにだって行ける船が、こんな風に係留されているのを眺めていると、そんな気がした。

岸につながれて暫しの骨休めのようだけれど、なに、このままだって、一向に構わないわけだ――旅の記憶を爪繰っていようと、そうでなかろうと。


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