森崎和江「そのあたり」[2022年06月20日(Mon)]
◆森崎和江『地球の祈り』(深夜叢書社、1998年)から、さらに短い一篇を――
そのあたり 森崎和江
霧ふかく
みえないもの
みえないまま
川にあるあたり
山のあるあたり
わたしのいない そのあたり
人のけはい
かなしみのいろの
坐るけはい
ふれないまま
みえないまま
旅
旅をゆく
◆短いだけでなく、ふかい霧につつまれてみえない。遠く深い世界をあゆむ者の気配を感知している。
それを「かなしみのいろ」とひらがなで表している。
「悲しむ・愛しむ・哀しむ」のいずれをも含んでいて、ひらがなが表しうるものの深さに驚く。
◆「そのあたり」とは未来を指しているようだ。先だった者の向かった先、自らの命終のその先に続く時間。(*この詩に接しながら、前々回のアルテミドロスの〈夢は未来のことを表わす〉がなお頭の中に残響している感じがする)