スルバ・ミトロヴィッチの短詩[2022年06月13日(Mon)]
◆『文学の贈り物 東中欧文学アンソロジー』にはセルビアの詩人も載っている。
ユーゴスラヴィアの解体その後については殆ど知らないが、ミトロヴィッチ(1931-2007)という人の短詩を少し紹介する。
喚起力 スルバ・ミトロヴィッチ
田中一生・訳
自分のいなくなった世界を
想像できるだろうか。
あれこれ考えずに、こうすればよい。
息を止めるのさ。すると
確実に予感できる。
◆諧謔と批評眼は背中合わせだ。それは常に世界に向けられているが、口先でなく実行を伴わねば。ただし本当に死んじゃってはまずい。
◆注意喚起に成功したら、惰性の日常を眺め直すことだ。
(まずは、足もとから。習慣の奴隷に甘んじていないか?)
旅人 スルバ・ミトロヴィッチ
田中一生・訳
ごみの詰まった
黒い袋を両手に
ぼくは家を出る。
習慣と欲求と運動の奴隷、
ぼくは旅に出るのか、それとも
世界の河口にたどり着くのか。
◆河口にはありとあらゆるゴミが世界中から集積する。川上に想像力を働かせてゴミを出さないことが先決だと切実に分かるころには、足腰が利かなくなっていたりする。
*ミトロヴィチは芭蕉や蕪村の翻訳紹介にも尽力した人だとのこと。
〈三行詩、あるいは俳句の試み〉という詩群もある。
*いずれも小原雅俊・編『文学の贈り物 東中欧文学アンソロジー』(未知谷、2000年)に拠った。