オクジャワ「紙の兵隊」[2022年06月05日(Sun)]
紙の兵隊 ブラート・オクジャワ
宮澤俊一・訳
兵士がひとりこの世にいた
美男で 勇敢な奴だった
でも 子供の玩具だったのさ
だって 紙の兵隊だったんだ
彼 世直しがしたかった
みんなが 幸せになるように
でも 紐につながれていたのさ
だって 紙の兵隊だったんだ
彼 たとえ火のなか 水のなか
あなたのために 飛び込んた
でも 慰みものにされたのさ
だって 紙の兵隊だったんだ
あなたは 彼に打ち明けなかった
ご自分の 重要な秘密を
でもどうして? きまってらあ
だって 紙の兵隊だったんだ
でも彼 自分の運命を呪い
平穏な暮らしを 捨てたがっていた
そしていつも 頼んでいた「火をくれ、火をくれ!」と
自分が紙であることを 忘れてさ
何? 火だ? 行きたきゃ行けよ 行くか?
そこで彼 敢然と歩を進め
ひとつまみの 灰と化してしまったのさ
だって 紙の兵隊だったんだ
CD「紙の兵隊」(OMCX-1034 オーマガトキ、1998年)より
◆この6月に没後25年を迎えるロシアの吟遊詩人・作家、ブラート・オクジャワ(1924年5月9日- 1997年6月12日)の詩。
これを収めたCDは追悼アルバムだ。
オクジャワ自身、1942年にハイスクールを卒業し、志願兵として前線に向かったという。
第2次世界大戦まっただ中の青春だった。
オクジャワはコミック・ソングのような速いテンポでこれを歌っている。
一片の紙切れに等しい軽さで扱われる命が、紙切れ同様のあっけなさで燃え尽きる。
いかに彼らを英雄として讃え、勲章で報いようとも、最高司令官自身が子ども同然で、火遊びに興じているというのが戦争の真実だ。