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北島(ペイタオ)「終りまたは始まり」[2022年06月02日(Thu)]


北島(ペイ・タオ)の1975年の詩を――

中国の「文化大革命」当時、「改革派」を批判した文章によって「反革命」とみなされ、1970年3月に銃殺された遇羅克(ぐうらこく ユー・ルオグオ。1942-1970)に献じたものだ。


終りまたは始まり――遇羅克に献ぐ   北島

わたしは、ここに立つ
もう一人の殺害された人間にかわって
太陽が昇るたびに
重たい影に路のように
国土全体をつらぬかせるために

悲しみの霧が
つぎあてのように入り乱れた屋根を覆う
家と家との間に
煙突は灰のような人の群れを吐き出す
温かさは明るい梢から吹き消え
貧しき吸い殻に留まる
人々の疲れた手の中に
どんよりとした黒雲が立ち昇る

太陽の名の下で
暗黒がおおっぴらに略奪する
沈黙はあいかわらず東方の話(ストーリー)
人々は古い壁画の中で
無言のうちに生き永らえ
無言のうちに死んでいく

ああ、わが大地よ
おまえはなぜもう歌わない
黄河の船曳きの太縄さえも
はじけ切れた琴の糸のように
もう鳴り響かないというのか
時間というこの暗い鏡も
永遠におまえに背を向け
星と浮雲しか遺(のこ)さないというのか
わたしはおまえをさがし求めている
すべての夢の中に
霧に包まれたすべての夜と朝に
わたしは春とリンゴの木を求める
蜜蜂が立てるかすかな風を
わたしは海岸の潮を求める
波がしらの陽の光がカモメの群れに変る
わたしは壁に築かれた伝説を求める
おまえとわたしの忘れられた名前を

もし鮮血がおまえを肥沃にさせるのなら
明日の枝に
熟れた果実は
わたしの色を留めるだろう

認めよう
死の寒々とした白い光の中で
わたしは、戦慄した
誰も隕石や
受難者の冷たい塑像になどなりたくはない
燃え尽きない青春の火が
他人の手から手へ渡されるのを見ながらも
肩にとまった鳩の
体温や息づかいを感じられない
羽づくろいを終えた鳩は
また慌(あわ)ただしく飛び去ってしまう

わたしは人間だ
わたしには愛が必要なのだ
わたしは恋人の眼の中でいつもおだやかな黄昏の時をすごしたい
揺れ動くゆりかごのそばで
息子のはじめての呼び声を待ちながら
草地や落葉の上に
真摯なまなざしの一つ一つに
わたしは生活の詩(うた)を書き記す
このありふれた願いが
今や人間であることのすべての代価となった

一生のうちに
わたしは何度も嘘をついた
だが、いつも誠実に守ってきた
子供の頃の一つの約束を
それゆえに、子供の心とは相い容れない世界は
もうわたしを許すことはなかった

わたしは、ここに立つ
もう一人の殺害された人間にかわって
これよりほかの選択はない
わたしが倒れたところに
また別の一人が立ち上がるだろう
わたしの肩の上に吹く風
風の上にきらめく星座

あるいはある日
太陽がしおれた花輪に変じ
飾られるのか
すべての不屈の戦士の
森のように生長した墓碑の前に
カラス、この夜の破片が
しきりに舞い騒ぐ



是永駿・編訳『北島(ペイタオ)詩集』(書肆山田、2009年)より

◆最後から2つ目の連、「わたしが倒れたところに/また別の一人が立ち上がるだろう」に心打たれる。「無言のうちに」「生き永らえ/死んでいく」こと=沈黙を美徳とみなす旧い時代に後戻りすることは、もはやできないのだ。



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