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服部誕「空洞を掘りあてる」[2022年05月19日(Thu)]


空洞を掘りあてる  服部誕


ひとびとが暮らしているこの地上の下には巨大な空洞がある
というホラ話を子どもの頃には信じていた

空洞はお屋敷のような形をしていて
なかには誰も知らない土中一族が住んでいる
屋根のてっぺんには高く聳える尖塔があって
その先端は地表と接している

だから誰かが自分の立っている真下の地面を少し掘っただけで
その塔のてっぺんを掘り当てる可能性があるのだという
そうなれば何が起こるんだろう?

塔のてっぺんに開いたちいさな穴から光が射し込んで
地下屋敷いっぱいに広がるのかもしれない
そこから空気が一気に入り込んで空洞全体に充満するかもしれない

あるいはもともと空洞に充ちていた(空気ではない)特別な気体が
地上に噴き出していって屋敷の中は空っぽになるのかもしれない
(あれっ、空洞なんだから、もともと空っぽなのかな?)

そのときそこに住んでいた者たちはどうなるのだろう?
はじめての陽の光に当たってこなごなに砕け散るのか
押しよせた空気を吸い込んであっという間に死に絶えるのか
それとも(空気ではない)気体とともに勢いよく地上に飛び出してゆくのか

きっと彼らには何が起こったのか解らないだろう
教えてくれる人なんか誰もいないだろう

そんなことを考えながら空を見ていたら
青空の真ん中に黒く小さい穴がひとつ
開いた

        星新一



服部誕『息の重さあるいはコトバ五態』(書肆山田、2021年)より


星新一のショートショート「おーい、でてこーい」(『ボッコちゃん』所収)をふまえた詩だ。

時が時だけに、地下要塞と言われてきた、アゾフスターリ製鉄所(ウクライナ・マリウポリ)を連想してしまう。

地上部分は完全な廃墟と変貌した製鉄所、その上にさらに降りかかる、白リン弾と見られる無数の火球――熱もにおいも伴わないドローン映像――それを見ることに疚しさを覚えないとすれば、感覚を鈍麻させることで我々は辛うじて自分を守ろうとしているのだろう。

だが、むろん我々はいつまでも観客であり続けることは出来ず、見上げれば我々には青い空と見えていた辺りに、コルク栓を抜いたような小さな穴が開いて、それを見下ろす一つ目小僧が居ると気づくかもしれない。その時にはもう遅いのだけれど。



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