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谷川俊太郎「嫉妬」[2022年05月09日(Mon)]


嫉妬  ――五つの感情・その四
               谷川俊太郎


私は王となってあなたという領土の
小川や町はずれのすみずみまで
あまねく支配したいと願うのだが
実をいうとまだ地図一枚もってはいない
通いなれた道を歩いているつもりで
突然見た事もない美しい牧場に出たりすると
私は凍ったように立ちすくみ
むしろそこが沙漠である事を
心ひそかに望んだりもするのだ
支配はおろか探検すら果たせずに
私はあなたの森に踏み迷い
やがては野垂れ死にするのかもしれぬが
そんなわたしのために歌われるあなたの挽歌こそ
他の誰の耳にもとどかぬものであってほしい



 『うつむく青年』(山梨シルクセンター出版部、1971年)収載。
 語り手・詩=谷川俊太郎/聞き手・文=尾崎真理子『詩人なんて呼ばれて』(新潮社、2017年)より。

◆「王」とか「領土」ということばはむろん喩(たと)えで、自分にとって未だ全く未知の存在である「あなた」への恋唄だ。

もしも恋い焦がれて死ぬとしてもそれはむしろ本望、ただ私だけにあなたの挽歌を聞かせて欲しいと願う。「挽歌」と対をなす、「相聞」の歌、すなわち「わたし」から「あなた」への愛の歌である。
死に臨んでも独占を欲するのは詩題にいう「嫉妬」の感情のなせるわざだけれど、独り占めできたかどうか、死んだ当人には分からない。
逆に相聞も挽歌も占有を免れ、人に洩れ伝わってこそ、少しは人の役に立つというものだ。
「わたし」の恥多き生涯も、無雑一途な真情も、他人の共有となることでようやく、「支配」欲や妄執から自由になれるわけなので。

押しつけが迷惑至極なのは愛国心なんかと同様だ。 

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