
ウンベルト・サバ「仕事」(須賀敦子訳)[2022年05月06日(Fri)]

エビネ
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仕事 ウンベルト・サバ
須賀敦子訳
ずっとむかし、
ぼくは楽々と生きていた。土は
ゆたかに、花も実も、くれた。
いまは、乾いた、かたい土地を耕している。
鍬は、
石ころにあたり、藪につきあたる。もっと深く
掘らなければ。宝をさがす人のように。
須賀敦子訳『ウンベルト・サバ詩集』(みすず書房、1998年)
◆少なくとも子どもであるあいだは、「楽々と生きて」いられたかも知れない。
いや、この地上には、すでに楽々と生きてなんかいない子どもだって数え切れないほどいるじゃないか、と思う。
だが、この詩は、過去と現在、他者と自分とを引き比べて嘆いているのではない。
◆鍬をふるって地を耕し、収穫を得ることの難しさが分かるようになった、ということが言いたいのではないか。
そのことが分かるようになったのは、倦むことなく耕し続けて来たからだし、手にした実りの価値がハッキリ分かるようになったのも、そのおかげだ。
土を痩せさせているものの存在を知らないわけではないが、恨み言にかまけて手を休ませるわけにはいかないことは、誰よりも良く知っているのだ。
*サバ(1883-1957)はイタリアの詩人。トリエステに生まれた詩人の面影を求める須賀敦子の随想「トリエステの坂道」も、上の詩集には抄録されている。