利岡正人「その先にも」[2022年02月17日(Thu)]
◆夜7時少し前、女子スケート1000mで高木美帆選手金メダルと速報が出た。実況を見逃したので7時のニュースで、とチャンネルボタンを押すと、岸田首相の顔の大写しだった。
みごとな滑りで五種目出場の最終レースをしめくくった高木選手への祝福のことばを述べたかどうか知らないけれど、快挙の報に暫しコロナ禍の憂鬱を忘れたい人々にとっては、紛れもなく電波ジャック的記者会見だった。
トンと記者会見に応じてこなかった上に、ようやく開いたと思ったら、タイミング最悪。
◆昨日、さいたま市の10代男性が亡くなったというニュースに胸がつぶれる思いをしたばかりのところ、今日の神奈川県内は、実に35名がコロナで亡くなった(新規感染者は8,025名)。
地元・藤沢市も2月13日の感染者653人(!)を記録した後も3~400人台が続いていて、明らかに高止まり状態だ(藤沢市、本日は414人)。
全国の一日の死亡者数は第5波の比ではなく多い。予想されていた事態だが。
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その先にも 利岡正人
その先にもまだ道は続いているはずだ
行き倒れのものとなって眠りの姿を晒している
一寸先の見通しさえきかないその先にも
私の眼前に見渡すかぎり世界が広がっている
この確かな実感を求め はるばる山頂を目指していたが
いつのまにか降り始めた雪は 気がつけば登山道を覆い尽くし
やがて視界が遮られるほどの猛吹雪
私もまた私が何処にいるのか見えなくなる
めまぐるしい地上の熱に浮かされて より高みへ
さらに身を焦がそうと 太陽へ近づいていたのも束の間
何を誤ったのか道半ばで倒れ 無情な雪を降り積もらせている
冷たく硬直した体を置いてどうして立ち去れよう
どこまでも広がりを見せる真っ白な雪景色
唯一可能なのは 自らの有限性を受け入れ眠りにつくこと
私は私を越えられない
ただ見知らぬ人によって越えられる
受け身と可能をあわせ持つものの矜恃として
悪天候が落ち着きを取り戻したあかつきには
後続の登山者たちにとって よき道しるべとなればよいが
『開かれた眠り』(ふらんす堂、2020年)より
◆「私が何処にいるのか見え」ない、という思いは切実だ。
それだけに、「ただ見知らぬ人によって越えられ」るよう、「よき道しるべとなればよい」と願うばかり。
但し、その道しるべを勝手に動かす不届き者が現れませんように。