
虫歯:朔太郎「空に光る」[2022年01月03日(Mon)]
◆虫歯の治療が年をまたいでしまった。
コロナで受診をためらっているうちに、かれこれ数ヶ月を空しく過ごしてしまったツケである。
幸い、複数の治療法を提案してくださる歯医者さんの丁寧な施術のおかげで、まずまず順調に進んでいる。詰め物が取れた部分の治療も並行してやらねばならないので、あとひと月はかかる見込み。
◆朔太郎の詩を眺めていたら、次のような詩に出くわした。
「齲歯」(むしば・ウシ)までも詩へと昇華させることに賛嘆を禁じ得ない。
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空に光る 萩原朔太郎
わが哀傷のはげしき日
するどく齲歯(むしば)を抜きたるに
この齲歯は昇天し
たちまち高原のうえにうかびいで
ひねもす怒りに輝けり。
みよくもり日の空にあり
わが瞳(め)にいたき
とき金色(こんじき)のちさき蟲
中空に光りくるめけり。
『蝶を夢む』所収。『萩原朔太郎全詩集』(筑摩書房、1979年)に拠った。
◆「齲歯」の怒りは持ち主の懈怠に鋭く向けられている。
と同時に、世の俗物や権謀術数の非道や打算をも、隠れなく照らし出している。