茨木のり子「色の名」[2022年01月01日(Sat)]
地元の山から眺めた初日の出。手入れの行き届いた杉林の下にはこれも良く手入れされた桜の木々が眠る。
足もとの枯草がたちまち色合いを変じて行くさまは、何ともいいようがない。
*******
色の名 茨木のり子
くるみ
胡桃いろ 象牙いろ すすきいろ
りす
栗いろ 栗鼠いろ 煙草いろ
色の和名のよろしさに うっとりする
柿いろ 杏いろ 珊瑚いろ
あざみ ききょう
山吹 薊 桔梗いろ 青竹 小豆 萌黄いろ
自然になぞらえた つつましさ 確かさ
とき ひわ
朱鷺いろ 鶸いろ 鶯いろ
かつては親しい鳥だった 身近にふれる鳥だった
うこん はなだ なんど すおう
鬱金 縹 納戸いろ 利休茶 浅黄 蘇芳いろ
字書ひいて なんとかわかった色とりどり
よもぎ わらび
辛子いろ 蓬いろ 蕨いろ ああ わらび!
早春くるりと照れながら
すくすく伸びる くすんだみどり
オリーブいろなんて言うのは もうやめた
『茨木のり子集 言の葉 3』(ちくま文庫、2010年)より
*設定の都合上、ルビをふることができないので、通常は単語の後に( )で記すことにしているが、この詩にはふさわしからず、やむなく改行を増やしてルビを小字で付けてみた。
スマホではズレて表示されるおそれあり、ご寛恕を請う。
◆色名辞典というものも世にあり、学習用辞典にもカラーで載っているありがたい時代ではある。(国語便覧がカラー印刷になったのは70年代に入ってからではなかったか。)
だがいくら鮮明な色見本が身近にあるといっても、見る者の心がそれで染めあげられることはない。加えて、幼い頃からの体験がここでもモノを言う。
知ってる色名の多い少ないでなく、実感の伴う色の名が、自分にどれほどあるか、世界の彩り豊かであるためには、やっぱり目や手になじんだ「言葉」がどれくらいあるかによるように思う。
新年を迎えて、気勢の上がらない話ではある。しかしそこから再始動するほかない。
なにとぞ本年もおつきあい下さいますよう。