
チュ・アンミン「夜の歌」(『地球にステイ!』より)[2021年12月19日(Sun)]
◆『地球にステイ!』からもう一篇、台湾の詩人を――
チュ・アンミン
夜の歌 初安民
両手を伸ばしたその距離が
僕たちの安全な距離
安全がこんなに遠いものだなんて
これまで知らずにいた
いままでずっと
互いに抱きしめ会うことが安全だと思っていたのに
いまは
僕から離れて、もう少し遠く
空気中には見慣れない敵がいて
肉眼では見透かせない欲望がある
幾千万もの山々や道を越え、果てしない隙間から襲いかかってくるそれを
たった一枚のマスク(フェイスシールド)で
防ぐしかない
亜熱帯の島で起こった小さな叫び
感染判断ギリギリの37.4度から熱が下がらず
心に枷をかけ
その身を監禁した
合法的な孤独の中
最終列車は往来を繰り返していた
僕たちはどこへ向かっているのだろう
くしゃみと咳が交互に行われる迷いのなかで
四方八方からうらぶれた鐘の音が聞こえる
ゆらゆらと立ち上る微かな光の中で
神に人間、禽獣に悪魔たちは
誰もがみな遠い不毛地帯にあった
[翻訳・倉本知明]
◆「安全がこんなに遠いものだなんて」思い知らされたのはコロナに限らない話だったのだけれど、それが「安心」とセットで唱えられるたびに、ウイルス以上に、政治の不作為によってますます遠くなったことを実感すること2年近く。
首都圏では東京・神奈川にジワリと再燃の兆しがあり、とりわけオミクロン株の広がりによってまたぞろ狂躁に向かっている気配がある。
デルタ株で学んだハズ、ではなかったのか?