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映画「博士の愛した数式」と柳内やす子「光景」[2021年11月15日(Mon)]

◆映画「博士の愛した数式」、TVでやっていたのでようやく通して観た。
タイトルにある「数式」は「オイラーの等式」というものらしいが、いくつかの基本の要素から成る簡潔な式が、人間と人間の関係や、人間の魂の中にあって外から直接には見えないものを表しているようだ。

映画のエンドロールに出てくるウィリアム・ブレイクの詩も良かった。

そうした気分の揺曳が続いたせいか、以下の詩に目が留まった。

*******


光景   柳内やすこ


夢だったかもしれないと思うことがある
遠い記憶である
行楽日和の古都は大勢の人で賑わっていた
広大な奈良公園をひとり散策していた私は
ふと木々に囲まれた細い坂道に迷い込んだ
人々の声が遠のき
小鳥の囀りがかすかに聴こえた
不安に駆られながらも何かに促され
急なこう配を昇っていくと
目の前に開けた場所
それは音のない世界だった

 大きな古い桜の木から花吹雪が舞っていた
 鹿が二頭草を食んでいた
 他には何もなく誰もいなかった

そしてそこにはすべてがあった
例えば私の亡くなった祖母や義姉
今は病院で寝たきりの父も花見に訪れている
歩き始めたばかりの娘がおそるおそる鹿に近づく
小さな息子を抱く若い私
まだ生の厳しさを知らない赤子は安らかに眠り
私も穏やかに微笑んでいる
なぜならそこでは
すべてが満たされていると同時に
始めから何もないので
大切ものを失う不安に悩まされないから――

それは一度きりの光景だったのではないだろうか
その日その時開かれた空間は
またそっと閉ざされ
その場所へと誘った道はすでに跡形もないだろう


新・日本現代詩文庫『柳内やす子詩集』(土曜美術社出版販売、2016年)より


◆「すべてがそこにあって…満たされていると同時に/始めからなにもない」そのことがもたらす平安。

確かに、失うことの不安を抱えていては、せっかく手もとにあるものすら見えなくなってしまうだろうな。
「流れる時間」(映画で出てきたことばだ)の上でもがくのが普通ではあるのだが。


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