CANPAN ブログ検索
Loading
  • もっと見る
« 2021年09月 | Main | 2021年11月 »
<< 2021年10月 >>
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
最新記事
カテゴリアーカイブ
月別アーカイブ
日別アーカイブ
茨木のり子「行方不明の時間」[2021年10月25日(Mon)]



行方不明の時間   茨木のり子


人間には
行方不明の時間が必要です
なぜかはわからないけれど
そんなふうに囁(ささや)くものがあるのです

三十分であれ 一時間であれ
ポワンと一人
なにものからも離れて
うたたねにしろ
瞑想にしろ
不埒(ふらち)なことをいたすにしろ

遠野物語の寒戸(さむと)の婆のような
ながい不明は困るけれど
ふっと自分の存在を掻き消す時間は必要です

所在 所業 時間帯
日々アリバイを作るいわれもないのに
着信音が鳴れば
ただちに携帯を取る
道を歩いているときも
バスや電車の中でさえ
〈すぐに戻れ〉や〈今 どこ?〉に
答えるために

遭難のとき助かる率は高いだろうが
電池が切れていたり圏外であったりすれば
絶望は更に深まるだろう
シャツ一枚 打ち振るよりも

私は家に居てさえ
ときどき行方不明になる
ベルが鳴っても出ない
電話が鳴っても出ない
今は居ないのです

目には見えないけれど
この世のいたる所に
透明な回転ドアが設置されている
無気味でもあり 素敵でもある 回転ドア
うっかり押したり
あるいは
不意に吸いこまれたり
一回転すれば あっという間に
あの世へとさまよい出る仕掛け
さすれば
もはや完全なる行方不明
残された一つの愉しみでもあって
その折は
あらゆる約束ごとも
すべては
チャラよ




『茨木のり子集 言の葉 3』(ちくま文庫、2010年)より

*寒戸の婆…『遠野物語』にある神隠しの話。ある娘が梨の木の下に草鞋を残したまま行方知れずになった。三十数年後の風の強い日に山姥のような姿で帰ってきたものの再び去って行ったという。


◆ケータイからスマホへ、文字のやりとり中心になったとは言え、着信があれば気鬱な折がままある。
つながっている誰かがいるという安心感を必要とする一方で、「放っておかれる自由」だってあらあナ、と嘯く人間は扱いにくい生きものかも知れない。

◆我が相棒は朝夕の散歩でも、留守番させた時も行方不明になったことは一度もないし、解放してくれとうるさく要求することもない。

ただ、15歳過ぎた高齢犬だから寝ている時間が増えた。そんな相棒をツンツンすると、薄目を開けてチラとこちらを見る。主張はしないけれど、ウタタネする自由をこちらに気づかせようというわけだ。謙抑的な態度をこちらも見習うべきなのだが……。



| 次へ
検索
検索語句
最新コメント
マキシミリアナ・マリア・コルベ
コルベ神父のこと その2 (06/23)
タグクラウド
プロフィール

岡本清弘さんの画像
https://blog.canpan.info/poepoesongs/index1_0.rdf
https://blog.canpan.info/poepoesongs/index2_0.xml