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茨木のり子「系図」[2021年10月23日(Sat)]


系図  茨木のり子


子供の頃に
叩きこまれたのは
万世一系論
くりかえしくりかえし
一つの家の系図を暗誦
それがヒストリイであったので
いまごろになってヒステリカルにもなるだろう
一つの家の来歴がかくもはっきりしているのは
むしろ嘘多い証拠である
と こっくり胸に落ちるまで
長い歳月を要したのだ

何代か前 何十代か前
その先は杳として行方知れず
ふつうの家の先祖が もやもやと
靄靄(もやもや)と煙っているのこそ真実ではないか

父方の家は 川中島の戦いまでさかのぼれる
母方の家は 元禄時代までさかのぼれる
その先は霞の彼方へと消えさるのだ
けれど私の脈搏が 目下一分間七十の
正常値を数えているのは
伊達ではない

いま生きて動いているものは
(な)べて ひとすじに 来たるもの
ジャマイカで珈琲の豆 採るひとも
隣のちいちゃんも
昔のひとの袖の香を芬芬(ふんぷん)と散りしいて
いまをさかりの花橘(はなたちばな)
きのう会った和智さんも
どういうわけだか夜毎 我が家の軒下に
うんちして去る どら猫も
ノートに影 くっきりと落し
瞬時に飛び去った一羽の雀も
気がつけば 身のまわり
万世一系だらけなのだ



『茨木のり子集 言の葉 2』(ちくま文庫、2010年)より

◆そう言えば、田舎の蔵の屋根裏に万世一系の人々の肖像を並べた掛け軸があったナ、と思い出した。
百いくつもの知らぬ顔が並んだ最下段はメガネにちょびひげの見慣れた顔で、あァこの人が一番最後ということかと、理解はしたが、全体の意味が領解できたわけではない。

「千代・八千代」はいうまでもなく、万世も子どもの理解を超えた数字であるはずが、そのメガネの人まで数えても120幾人であることに実は拍子抜けしたのを覚えている。

◆それでも、この詩のように、ちゃんとした大人の人が相対視するすべを教えてくれる言葉に出会うまでは、「万世一系」の毒気、なかなか抜け切らない。

振り返れば、戦後「人間宣言」をしたその人の後半生は、わが人生の半分以上と重なっていたことになる。



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