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大手拓次「こゑ」[2021年10月14日(Thu)]


こゑ   大手拓次


こゑは つぼみのあひだをわけてくる うすときいろの霧のゆめ、
こゑは さやいでゐる葉の手をのがれてくる 月色の羽音(はおと)
こゑは あさつゆのきえるけはひ、
こゑは こさめのふりつづく若草の やはらかさ、
こゑは ふたつの水仙の指のよりそふ風情、
こゑは 月ををかしてとぶ 鴉(からす)のぬれいろ、
こゑは しらみがかつてゆく あけぼのの ほのむらさき、
こゑは みづをおよぐ 銀色の魚の跳躍、
こゑは ぼたんいろの火箭(ひや)
こゑは 微笑の饗宴。



原子・編『大手拓次詩集』(岩波文庫、1991年)より

◆大手拓次(1887-1934)は萩原朔太郎(1886-1942)と生年、生まれ故郷ともに近く、朔太郎との交流もあった詩人だのに、余り知られているとは言いがたい。

だが、上の様な佳篇を読むと、視覚と聴覚の共感覚が表現されていて面白い。
皮膚をなでる湿度や空気の揺れには同時代の詩人や芸術家たちが共有していた空気をも感じる。

〈香料〉を歌った連作があるのは、たぶん類を他に見ない。



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