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新川和江「火へのオード 6」[2021年09月28日(Tue)]

新川和江に、万物の根源〈土・火・水〉に寄せたオード三部作がある。
Odeすなわち頌歌として、〈土へのオード13〉〈火へのオード18〉〈水へのオード16〉が連作された。それぞれを讃えた詩群だ。
(数字はそれぞれに含まれる詩篇の数。ただし、〈土へのオード13〉は、実際にはT・Uの2部から成り、Tには番号を付さない8篇。これに番号を付したUの13篇の計21篇を数える。)

そのうち「火へのオード18」から一篇――


〈火へのオード18〉より


  6    新川和江


ひれふるふれひ
むらさきののに
ふれふれふれひ
のもりがはなつ
きよめののびを
きみふるひれと
みまがひしひと
やかれてはつる
ふれふれふれひ
めしひしこひに
ひれふるふれひ
ひいろのひれに

   *この章のみ旧仮名使用


  ほるぷ〈日本の詩〉『新川和江』(ほるぷ出版、1985年)より

◆「火」への讃歌にふさわしく「ひ」音および同じハ行の音が次々と爆ぜて火の粉が上がり、炎が噴きあがるような詩だ。

◆「ひれ」は万葉歌に出てくる「領布(ひれ)=比礼」のことだろう。女性が肩にかけて用いた帯状の裂(きれ)である。

万葉集の巻五に松浦佐用比売(まつらさよひめ)の悲恋物語を歌った歌群の中に、山上憶良の歌として、例えば次の歌がある。

海原のおき行く船を帰れとか
  領布振らしけむ 松浦佐用比売


佐用比売=佐用姫が朝鮮に向かう大伴狭手彦(おおとものさてひこ )を行かせまいと、山の上から「ひれ」(領布)を振ったという物語である。
こらえきれない思いを届かせ、かつ「ひれ」振ることで願いが叶うことを祈るのである。

◆続く「むらさきのの(紫の野)」は、良く知られた額田王の歌をふまえている。

あかねさす紫野ゆき標野(しめの)ゆき
  野守は見ずや君が袖振る


ここでも「袖振る」ことで恋心を伝えるだけでなく、「ひれ振る」と同じく相手の魂を招こうとしているのだろう。

◆この詩が汲み上げている源泉は和歌だけではない。
最終行にはホーソンの小説『緋文字』もふまえられている。
ヒロインの胸に縫い付けられた「ひいろ(緋色)」の「A」の文字――
――秘しても現れるほかない、あかあかと燃えさかる恋の炎(ほむら)だ。


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