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鈴木ユリイカ「ニュース」[2021年08月08日(Sun)]


ニュース   鈴木ユリイカ


その年わたしは河辺とか牛浜とかいう名前の
昔 海だったところで眠った
その年は日本中で集中豪雨になり
木が根こそぎ流れ 川が泥だらけになり
木の重さで近くの家々が何軒も破壊された
その年ヒアリがコンテナにのってやってきた
その年は熱帯夜で眠られなかった
その年わたしは甘いゼリーを食べた
その年にはスペインでは大きな雹が降り
羊たちが死んでしまった
その年は十四歳の天才将棋士が二十九連勝も獲得した
その年は民主主義のメッキがはがれた
その年は隣国が宣伝ミサイルを空に向かって発射した
その年は幸福な年でもあった
その年は絶望的な年だった

その年は毎日のように殺人があった
数年前から いや数十年前から人が殺され続けた
誰も騒がなかったし
一つ一つの殺人は何もつながらなかった
いつになったらこの殺人がやめられるのか
見当もつかなかった
その年もその次の年もその次の次の次の年も
毎日のように殺人があるだろうか
ひとりでは考えられないこともある
七十二年前にヒロシマ ナガサキに原爆が落ちたときに
みんなが大騒ぎしたとき
誰ひとり原爆の被害について
論理的に究明できなかった
わたしが原爆の詩を書こうとすると
ことばが空からカナヅチみたいに落ちてくる
落ちてくる 何万トンの岩が 雹が落ちてくる

わたしは空を見上げ一メートル身をひく
今わけの分からない殺人が少しずつ毎日増えている
空から死が降ってきたヒロシマ ナガサキの人々を
わたしたちが見捨てたため
けれどもわたしたちも目に見えないところで
傷ついていると気づく
ヒロシマ ナガサキについて批評するときはどこかに
救済がなくてはならぬ
わたしたちはあの街をちらほらと歩く
その年が来るために 誰も殺さない
誰にも殺されないために

その年はきっと来る




鈴木ユリイカ『サイードから風が吹いてくると』(書肆侃侃房、2020年)より

*河辺(東京都青梅市)/牛浜(東京都福生市)…ともに青梅線の駅。


◆戦後72年の2017年に書かれた詩とわかるが、わずか4年前なのに、もうそんなに…と言おうか。
禍々しい出来事も、それをもたらした根本の原因も、過去のこととして記憶に繰り込まれることは拒んでいる。
忘れることは見捨てることに等しい。少しでも収束や解決に近づくためには、天からわが身に落ちてくる「カナヅチ」を恐れながらことばを探すほかないのではないか。

◆さて9日の長崎平和祈念式、スカ首相は、再び核兵器禁止条約を黙殺したあいさつを繰り返すつもりだろうか?
明日昼頃まで長崎は台風の余波が懸念されている。
強風に原稿飛ばされぬよう予備を用意するか、暗唱して臨むか。
あるいはコロナ対応を理由に欠席=代読で済ますか。
さもなくば一言、「核兵器禁止条約を批准することに致しました」とサプライズをもたらすか。




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