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鈴木ユリイカ「G線上のアリア」[2021年08月06日(Fri)]

◆ヒロシマ追悼の式典あいさつで首相、原稿を読み飛ばすという失態。
しかも読み落としたのは「核廃絶」に被爆国日本が果たすべき役割を述べる部分。

大人が当てにならない分、子どもたちのことばのけざやかさが際立つ。

◆追悼の思いをこめて演奏されることの多いJ.S.バッハの「G線上のアリア」を詠んだ詩を、前回と同じ詩集から……



G線上のアリア  
 ―― ロストロポーヴィッチの若き日の演奏をCDで聴く

           鈴木ユリイカ


黒い写真には洋梨のような頭をしたひとりの若いチェリストが
いまにも 死にそうな顔をして立っている 彼のいのちは
蠟燭の炎のようにふいにかき消えてしまいそうだったけれども
音楽家の手は神のそれのように美しくしっかりと楽器を支えている

チェロが鳴り出すと たちまち 私の心臓はふくれあがり
血液は全身を駆けめぐった その時 わたしの中から
透きとおった五歳の女の子が脱け出し記憶の中で立ち止まった
その時 女の子の母親が「あれが東京よ」と言った

その時 引揚列車が停まり 硝子窓から何かが見えた
東京はなかった ぐにゃりと飴みたいに曲がった電柱と
恐しくいためつけられた大地と その上に降る
白いちらちらしたものが見えた 子どもはまだ知らなかった
白い雪というものの下で都市の数知れぬ建物が燃えさかり
人間が焼芋と同じに真黒こげになることを知らなかった

恐らく数秒間、数分間の汽車の停止なのに女の子は憶えていた
汽車はゆっくり走り去りもはや誰もそのことを語らなかった

知らなかった 夢の駅で幾度も汽車は停止し
あれがヒロシマよ と誰かが言った 知らなかった
はだかの人間の皮膚がだらりとたれさがったまま赤ン坊に乳を含ませるひとを
雪の中に黒い線は続き吹雪は舞いG線上のアリアは続いていた
知らなかった ポーランドの田舎町では終日
人間を焼く匂いがし 知らなかった 中国の都市では
兵隊がにたにた笑いながら人間の首を切り落としていた
知らなかった ロシアの田舎町では戦車がガラガラと動き
壁から血が噴きでていた 知らなかった 知らなかった
知らなかったと言いいつまでも夢の駅で泣きじゃくる五歳の
子どものまま年をとっていく わたしを知らなかった

吹雪の中で音楽は続いていた 恐怖の時代に個人が生き
耐えるとは何かを考えながら音楽家はチェロを弾いていた
死んでいったひとをひとりひとり訪ねるかのように
死者たちに何か話しかけていた 優しく 悲痛に
遠い流刑地に居る友に届くように 心をこめて弾いていた
それでもまだ彼は若く 時に死にそうになりながら
彼自身が死なないためにも弾いていた その時
わたしと 五歳のわたしを見つめ合いふたりで耳をすました
女の子はすでに知っていた
にんげん というものを
大地の心臓が破裂するまで近づいては遠ざかり
遠ざかっては近づき すべてをさらう戦争を



鈴木ユリイカ・セレクション1『サイードから風が吹いてくると』(書肆侃侃房、2020.8.6発行)より

鈴木ユリイカ「わたくし・広島」[2021年08月06日(Fri)]

◆8月6日の公共放送NHK地上波はヒロシマ特別番組を放送しないらしいと話題になっていて(BSで流す番組はあるようだが)、オリンピック特別編成が原因と指摘する声もある。

確かに、このところ、申し訳程度のニュース以外は夜遅くまで軒並み五輪関連。
夜9時のニュースが消し飛んだ日さえあった。
8月5日、コロナ感染者がまたまた最多を更新し、東京は5千人台に突入という5日ですら、夜9時のコロナ関連ニュースはわずか15分だけだった。

バッハIOC会長のヒロシマ訪問とNHKの番組編成がバーターだったという説は、うがち過ぎと思うものの、五輪特番が時間・人員・予算のあらゆる部面にしわ寄せを及ぼしていることは明らかだ。

◆被爆の歴史以外にも忘れてはいけないことはある。
掘り起こして記録し、放送してきた先輩たちの志もその一つだ。


*******

鈴木ユリイカ・セレクションの1となる詩集『サイードから風が吹いてくると』にはヒロシマの連作が収められている。その中から一篇――



わたくし・広島   鈴木ユリイカ


わたくし・広島は白いキョウチクトウの花の
隣の青いキョウチクトウの花にある
わたくし・広島は歌を歌うと
声は上の方にのぼっていく
そして白い雲の下にある
わたくし・広島の胸の上を六つの川が流れている
橋の上をさまざまなことをくぐり抜けた人々が通る
わたくし・広島は祖母の灰の上に
横たわっている
時に 少し苦しい
わたくし・広島は息をしている
わたくし・広島は白い雲の上からわたくしを見る
わたくし・広島はまだ体のどこかが痛いときがある
時々わたくし・広島は眠っているとき寝違えて
はっとする わたくし・広島ははんぶん
消えかかっているのではないだろうか?
それから わたくし・広島は魚が泳ぐ川と海に触ってみる
わたくし・広島はまだ女の子だ
わたくし・広島は歌を歌うと
声はどこまでものぼっていき
それから雨になって降ってくる
わたくし・広島は青いキョウチクトウの花の
隣の白いキョウチクトウの花にある



鈴木ユリイカ・セレクション1『サイードから風が吹いてくると』(書肆侃侃房、2020.8.6発行)より

*YouTubeに詩人による自作朗読「わたくし・広島」がアップされている。
2013年の朗読である。

鈴木ユリイカ【本人朗読】わたくし・広島 2013
https://www.youtube.com/watch?v=hsCJ8p8Ob_A







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