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高橋憲三「塩煮のジャガイモ」[2021年07月21日(Wed)]

210716芙蓉1DSC_0185.jpg
芙蓉。暑気にややうなだれ気味だが。

× × ×
 × ×


塩煮のジャガイモ  高橋憲三


親に仕事がなくて
腹が減ってばかりのころ
うまかったのは
(ば)ぁちゃんのゆでた塩煮ジャガイモ
まだらに皮むいて
振った塩もまだらで
鍋がからになりそうなのに
缶カラ持って銭もらってる傷痍兵にも
婆ぁちゃん 運んで配給してた

あんな痩せイモ なんでうまいのか
里から汽車を乗り継いで来たから?
婆ぁちゃんの背中に乗って来たから?
駅まで迎えに行き
袋ごと持ってやろうとしても
ほんとは少しなのに 重くて手にあまし
結局 支えてやるのが手伝い

遠く離れた畑からはるばるやって来て
それで あのジャガイモはうまかったのか
ホクホク ホコホコ
凸凹に塩がへばりつき
フウフウいって
おいしかったのか

どこかある国で
飢饉を避けるために作ったジャガイモ
仕方なく収穫したダメジャガだけど
今でも食べたい 婆ぁちゃんの塩煮ジャガイモ

ホコホコ塩を噴いて
(アッ)チッチッチだが
うまくて うまくて
食べさせてあげたい

あの日の自分と 今の自分に
砂と砲弾の難民に



『詩集 星に祈りを』(土曜美術社出版販売、2020年)より

◆子供の頃の暮らしと結びついた食べものの記憶は誰にもあるだろう。
「ソウルフード」など今どきの言い方をしても違う感じがつきまとうのは、作ってくれた人の記憶と分かちがたいからだ。
ここでは町に出て暮らしている息子と孫たちのために汽車を乗り継いでやってくる婆ぁちゃんの姿や振る舞いが回想されている。

ジャガイモを洗う手振り、水の音、その冷たさ。茹で上がるまで待つ間の時間、漂ってくる匂い――里に遊びに行った折にも塩煮のジャガイモを作ってくれたはずで、土間やカマドの情景までが脳裡に収められている。
駅頭にいた傷痍軍人の姿も高度成長以前の景。レトロな昭和を描いた映画やドラマがフレームからあえてハズすことも多い戦争の記憶である。

作者は1949年生まれ、青森県黒石市に在住の詩人。




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