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〈忘れるな、本当にあったのだ〉[2021年06月23日(Wed)]

◆沖縄慰霊の日。
雨に濡れた平和の礎を撫で、花を手向ける人たちを映すTVの画面に、中学生の詩の朗読が響いた。
〈忘れるな、本当にあったのだ〉――〈本当にあったのだ〉というリフレインが胸に突き刺さる。

それに続くスガ首相のヴィデオメッセージはなくもがな。血の通わぬことばについて喋々するよりは、会場の人々にも中継で見る者にもしみ通って行った魂の言葉を、文字でも味わい直したい。

***


みるく世の謳(うた)

  宮古島市立西辺中学校二年 上原 美春

初めて命の芽吹きを見た。
生まれたばかりの姪は
小さな胸を上下させ
手足を一生懸命に動かし
瞳に湖を閉じ込めて
「おなかすいたよ」
「オムツを替えて」と
力一杯、声の限りに訴える
大きな泣き声をそっと抱き寄せられる今日は、
平和だと思う。
赤ちゃんの泣き声を
愛おしく思える今日は
穏やかであると思う。
その可愛らしい重みを胸に抱き、
6月の蒼天を仰いだ時
一面の青を分断するセスナにのって
私の思いは
76年の時を超えていく
この空はきっと覚えている
母の子守唄が空襲警報に消された出来事を
灯されたばかりの命が消されていく瞬間を
吹き抜けるこの風は覚えている
うちなーぐちを取り上げられた沖縄を
自らに混じった鉄の匂いを
踏みしめるこの土は覚えている
まだ幼さの残る手に、銃を握らされた少年がいた事を
おかえりを聞くことなく散った父の最後の叫びを
私は知っている
礎を撫でる皺の手が
何度も拭ってきた涙
あなたは知っている
あれは現実だったこと
煌びやかなサンゴ礁の底に
深く沈められつつある
悲しみが存在することを
凛と立つガジュマルが言う
忘れるな、本当にあったのだ
暗くしめった壕の中が
憎しみで満たされた日が
本当にあったのだ
漆黒の空
屍を避けて逃げた日が
本当にあったのだ
血色の海
いくつもの生きるべき命の
大きな鼓動が
岩を打つ波にかき消され
万歳と投げ打たれた日が
本当にあったのだと
6月を彩る月桃が揺蕩(たゆた)
忘れないで、犠牲になっていい命など
あって良かったはずがない事を
忘れないで、壊すのは、簡単だという事を
もろく、危うく、だからこそ守るべき
この暮らしを
忘れないで
誰もが平和を祈っていた事を
どうか忘れないで
生きることの喜び
あなたは生かされているのよと
いま摩文仁の丘に立ち
私は歌いたい
澄んだ酸素を肺いっぱいにとりこみ
今日生きている喜びを震える声帯に感じて
決意の声高らかに
みるく世ぬなうらば世や直れ
平和な世界は私たちがつくるのだ
共に立つあなたに
感じて欲しい
(たぎ)る血潮に流れる先人の想い
共に立つあなたと
歌いたい
蒼穹(そうきゅう)へ響く癒しの歌
そよぐ島風にのせて
歌いたい
平和な未来へ届く魂の歌
私たちは忘れないこと
あの日の出来事を伝え続けること
繰り返さないこと
命の限り生きること
決意の歌を
歌いたい
いま摩文仁の丘に立ち
あの真太陽まで届けと祈る
みるく世ぬなうらば世や直れ
平和な世がやってくる
この世はきっと良くなっていくと
繋がれ続けてきたバトン
素晴らしい未来へと
信じ手渡されたバトン
生きとし生けるすべての尊い命のバトン
今、私たちの中にある
暗黒の過去を溶かすことなく
あの過ちに再び身を投じることなく
繋ぎ続けたい
みるく世を創るのはここにいるわたし達だ



◆詩は毎年公募され、入選作が県平和祈念資料館から慰霊の日の前に発表される。従って戦没者追悼式式典を中継するに当たりNHKは、この詩に合わせた映像を織り込みながら放送を進めて行った。
それほどの用意をして中継に臨むならば、せっかくの詩の朗読(今年も暗唱で読み上げられ、歌われた)の余韻を台無しにしないよう、ライブではない首相メッセージなど割愛しても良かっただろうに、と思った。その方が首相も面目を失わずに済んだはずだ。
ライブの首相会見ですら、質問にたじろぐ首相の姿は映さぬよう早々と放送を終了するNHKだもの、それぐらい気を利かしたら良かろうに。




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