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許炯萬「耳を葬る」[2021年06月12日(Sat)]


◆許炯萬(ホ・ヒョンマン)『耳を葬る』の標題詩を――

         ホ・ヒョンマン
耳を葬る  許炯萬


見てはならないものを見ずに暮らそうと思った
言ってはならないことを言わずに暮らそうと思った
見て語ることはすべて耳に通じるから
聞いてはならないことも聞かずに暮らそうと思った
だが洞穴で壁に向かって座禅でもしない限り 致し方ないではないか
とうとう聞いてはならない声を聞いてしまったから
許由(きょゆう)のように耳を洗うぐらいでは済まされない
すっぱり耳を切り落とすしか そうして切った耳を拭き清め
松籟(しょうらい)清らかな 日当たりの良い場所に葬るべく
九十二の老母が住む智異山(チリサン)へ向かう

  

【許由】…中国古代の伝説に登場する高潔な隠者。堯帝が高い地位を与えようと言ったとき、許由は汚らわしいと言って川で自分の耳を洗ったとされる。*原註

*〈智異山〉…韓国南部の小白山脈の南端に位置する山々の総称。
山岳信仰の聖地であると同時に、古来さまざまな歴史的事件における抵抗の舞台ともなった。

★吉川凪・訳『許炯萬詩選集 耳を葬る』(クオン、2014年)より。
〈新しい韓国の文学シリーズ〉の一冊である。


◆こうした作品を読むと、日韓のみならず東アジアの歴史や地政学上の課題を解きほぐす最良の鍵は共有する文化だという思いを強くする。
日本の高校生が来年から学ぶ国語や社会が、それらの果実をすっかり海の藻屑として片付けようとしているのは奇観を通り越して悲劇としか言いようがない。

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