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石川逸子「ロンゲラップの海」その3[2021年03月23日(Tue)]

◆石川逸子「ロンゲラップの海」その3として〈5〉および終章〈6〉を紹介する。



ロンゲラップの海  石川逸子


  5

「ジョンさん それからですよ
クリーニング業をつづけながら
模型船をもって 話をしに行くようになったのです」

その間にもつぎつぎ 死んでいった 仲間たち

山本忠司 機関長  一九八七年没 肝臓ガン(多発性)肺ガン・結腸ガン 五十九歳 
鈴木隆  甲板員  一九八九年没 肝臓ガン(原発性) 五十九歳
高木兼茂 機関員  一九八九年没 肝臓ガン(原発性) 六十六歳
久保山志郎 機関員 一九九六年没 肝臓ガン(原発性) 六十五歳
服部竹治 賄係   一九九七年没 肝臓ガン(心不全) 七十九歳 
安藤三郎 甲板員  一九九七年没 肝臓ガン(原発性) 七十一歳 
平井勇  冷凍長  二〇〇三年没 肝臓ガン(原発性) 七十一歳 

「大石さん
わたしもたくさんの島人の死を見てきました
あの日 近くのアイリングナエ島にコプラ作りに行っていた
屈強の若者 ジャヌワリが まず血を吐いて 死に
魚とりの達人だった セエランも
もだえ苦しんで死んだ
でも ジャヌワリは 心臓病 セエランは糖尿病だと
AEC(米原子力委員会)の医師は決めつける
毎日 わしらの血液と尿を検査しつづけながら
薬一つ くれはしなかった」

波を見つめたまま 老人はつぶやく
「一九五九年 わしらの帰郷について書いた
奴らのレポートを読んだとき どんなにおどろいたことか
レポートには書いてあったんです
『その島に これらの人間が住んでいることは
人体への放射線の研究に関し 生態上もっとも貴重なものを得る機会を提供している』
奴らはあの日 島にいなかったもの 百数十人を
『研究用の理想的な比較集団』として 島に送りこんだのですよ」

「ジョンさん
放射線医学研究所のおれらへの
毎年の検査も同じことでしたよ
肝機能障害も 染色体に異常があることをつかんでいても
一切 教えはしなかった」

海を見つめている老人の目に 浮かんでくる
赤ん坊のとき被曝したばかりに
成長を止めてしまった アレツト 目が見えなくなった ポール
投網を肩に 浜辺で被曝 ありとあらゆる病に苦しみ
のたうって死んだ 筋骨たくましかった ナポータリ
そして 何より愛しい 末息子 レコジ
暴れるため 最後は手足をしばられて 死んでいった
十六歳の レコジ

「ああ 久保山局長も 最後はそうでした
大声で暴れる叫びが 隣の病室にいる おれたちのところに
ぴんぴん 響いてきた
いつ おれたちもああなるのか ただ 怯えておりました」


  6

ロンゲラップの浜辺で
二人は
だまって 海を見る
だまって 心の内側を語り合う

(捨てられたマグロが 哀れでね
マグロ塚を建てましたよ)
(故郷の島を捨てる苦しさ でも 三世まで
内臓の障害をもって生まれてきたからねえ)

毒の島となってしまった浜辺で
二人は
ほんものの 真っ赤な夕焼けを見た
「ジョンさん あのときもこんな色でしたね」

老人はもう この世にはいない
核兵器一万発を所有する
核帝国と闘いつづけた
元ロンゲラップ村長は
写真から一ヶ月後には 静かに去っていってしまった

老人の骨は
廃墟のロンゲラップに埋まらないだろう
二度と訪れることのない 故郷を
その目に焼きつけよう と 浜辺で 波を みつづけたのか

肝臓ガンの手術から生還した 大石又七
飛べずにいたメジロを 慈しみ
砂糖水で養って空に返した 大石又七の
あたたかな目が 撮った
ジョン・アンジャインの後ろ姿
太古から 浜辺に寄せる
白い波 青い海




石川逸子ロンゲラップの海.jpg

石川逸子 『詩集 ロンゲラップの海』(花神社、2009年)



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