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〈雪がふりだす直前の空気のにおい〉[2021年01月12日(Tue)]


through  松浦寿輝


すりぬける
しみとおる
すかしみる
真夜中の川辺
したたるような月のひかり
鼓膜にじかにふれてくるような水音
わたしは犬と一緒に歩いていった
うずたかく積んだ枯れ葉をふみしめると
一歩ごと足がかすかにしずむ
物質が物質がぶつかって
ひかりがはじけ 音がひびく
ひかりと音はわたしのなかにもみなぎって
こころをつめたくひたした
徐々にあがってゆく歳月の記憶の水位
犬が飛び出してさきに立ち
向こうの木蔭にきえていった
真青なくらがり
雪がふりだす直前の空気のにおい
わたしの前にくっきり落ちているわたし自身のかげ
どこでもかしこでもぶつかりつづける物質と物質
いつの間にか背後にまわっていた犬が
またわたしを追いこしてゆく
波となってうちよせてくるひかりと音
それをすりぬけて
それがしみとおって
それをすかしみて
わたしはさらに歩いていった


『afterward』(思潮社、2013年)所収
『現代詩手帖』(2020年9月号)〈現代詩アンソロジー2010-2019〉によった。

◆12日は関東平野部でも雪、と天気予報は昨日から報じていたが、湘南地方は時折雨がパラつく程度で終わった。相棒との朝の散歩では雲低からず、寒さも中途半端で、何より雪の降りそうな「におい」が感じられなかったので、やっぱりなァ、という結果だった。

◆上掲詩は詩にあるとおり「ひかりと音」が大半を占める中で、ひとところだけ、「雪がふりだす直前の空気のにおい」という詩句を含み、印象に残る。

犬と同じように「わたし」も嗅覚を働かせている。
無論、「におい」がこの語が本来持つ視覚的なものをも含めて表現しているのだと解しても良い。
ただし、ここでは真夜中の月のひかりが照らす限りの、薄膜の向こうに沈んだような色合い、ということになろうけれど。
しかしあくまでも中心は「雪がふりだす」前の「空気のにおい」なのである。
それはどんなものかと言われると適当な形容が思いつかないが、ともかく「におい」がある、としか言いようがない。

◆詩集『afterward』は3.11の大震災を経て2013年までの詩群から成る詩集だそうだが、その角度から読むと、「物質が物質にぶつかって」・「つめたくひたして」・「歳月の記憶の水位」など、いずれも生々しい具体物を抱えながら、されど言葉に置き換えること困難なまま、抽象の尾っぽを残さざるを得ず、こうなりました、という印象がある。

◆「雪がふりだす直前の空気のにおい」は従って、2011.3.11から翌日にかけて被災者たちを雪が見舞ったあの夜、を喚起せずにはいない。

***

【参考】過去の記事で松浦寿輝氏の作品を紹介したのは下記。

松浦寿輝「密なる蜜」【2020年9月5日記事】
https://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/1699



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