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リルケ『神さまの話』より〈死の青い花〉[2021年01月02日(Sat)]

リルケ『神さまの話』
谷友幸・訳 新潮文庫、1953年)
〈死についての物語ならびに筆者不明の追記〉より

◆墓堀り人――死に無感覚になる自分の仕事に一種の怒りすら感じている男――に、「ある古い本」で読んだ話として語った、ある男女の物語……


「ふたりの人間がいました。男と女です。ふたりは、たがいに愛し合っていました。愛するということ、それは、どこからも、なにも貰わないことです。かつて持っていたものとか、その他さまざまのもの、一切合財を忘れ去って、むしろ、それを、ただひとりの人間から、受け取りたいと、望むことです。このふたりも、おたがいに、そういうことを願っていました。


◆しかし世間のしがらみや何やかやで実行はほとんど不可能。ふたりは町を離れて孤独の境へ入って行く決心をする。それぞれの望むものを通す門を銘々に持ち、庭をめぐらした家を建てて暮らす。
ある朝、門のまえに「死」が姿を現し、ふたりは門をぴったり閉ざして不安と妄想にさいなまれ、それを打ち消すためにことさら大声で話し、虚ろに高笑いをするようになる――
◆この話はそれで終わりかと思いきや、この「古い本」の元の持ち主が、本の裏表紙に、この物語を幾度も読むうちに自分に起こったこと、として追記した、あらまし以下のような続きがあったのである――


女のほうは、ついぞ、死のすがたを見かけたことがなかったので、なんの懸念もなく、死を、家のなかへ入れました。
ところが、死は、やや気ぜわしそうに、良心など微塵も持たぬひとのような口ぶりで、こう申しました。
「これを、あんたの良人(おっと)に、あげなさい」
女が訝しそうに、死をまじまじと見つめていますと、死はいそいで、こう言い添えました。
「種子(たね)だ。とても上等の種子だよ」
それきりあとも見ずに、立ち去って死まったのです。
女は、死が手のなかに預けていった、小さい袋を開けてみました。たしかに、種子らしいものがはいっていました。



――女は良人に仔細を語る気になれぬまま、種子をふたりの庭に蒔いた。
翌春、黒い光沢を放つ灌木が一本伸びて来た。どんな日差しを浴びてもそしらぬ顔で立っている灌木にふたりは悲しくなるが、これに全力をささげようと、めいめいの心に期す。
三年目の春、庭はすっかり荒れ果ててしまったが――


ところが、そうです。曇った、重苦しい一夜が明けて、朝のもの静かな、光きらめく庭辺(にわべ)へ、ふたりが、足を踏み入れたときでした。見れば、あの得体の知れぬ灌木の、黒い、尖った葉のあいだから、きわだかに、一輪の、いろ冴(さ)えぬ、青い花が、顔をつきだしています。蕾をつつんだ外被は、もうすっかりはち切れそうでした。
ふたりは、花をまえに、たがいに寄り添いながら、黙々と立っていました。いまさら語りあうことも、ふたりにはありません。いまこそ、死の花が咲く。そう、思ったからでした。ふたりは、この若々しい花の香をきこうと、ともに、身をかがめました。
――ところが、この朝あって以来、世界は、すべてが、一変してしまったのです」



◆どう一変したのか、説明はない。
ただ、くだんの「墓堀り人」は、しばらく言葉もないほど滅法感動した様子のあと、だれかに、この話をしてやりたいが構わないか、と言うのだった。


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