串田孫一「白い息」[2020年12月04日(Fri)]
串田孫一『日曜日の朝』から、1975年の暮れに朗読されたと思われる一編を。
白い息 串田孫一
子供が三人並んで
軒先の一羽の雀を
いつまでも見ている
まるくふくれて
動こうともしない雀の嘴に
紫に光るものがある
一人はズボンに手を入れ
一人は大切な帽子をかぶり
一人は腕を組んでいる
三人の白い息が
朝の光の線に
薄赤く絡んで消える***
◆一枚の絵を見るようだ。
朝の餌をくわえた一羽の雀、それを凝視している三人の子どもたち、それらを結ぶ線で構成される冬の朝の情景。
ここで動いているのは三人の口や鼻から上がる白い息だけだ。その淡いゆらめきが、雀と子どもたちとの間に張り詰めて静止したような緊張を浮き彫りにする。
学校に遅れるよ、と声かけることも、「何を見ているの?」と問いかけることもためらわれるような大事な瞬間が言葉によって描き出されている。