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〈ひとは曲がった木のように生きる〉[2020年10月19日(Mon)]

イツカ、向コウデ  長田弘

人生は長いと、ずっと思っていた。
間違っていた。おどろくほど短かった。
きみは、そのことに気づいていたか?

なせばなると、ずっと思っていた。
間違っていた。なしとげたものなんかない。
きみは、そのことに気づいていたか?

わかってくれるはずと、思っていた。
間違っていた。誰も何もわかってくれない。
きみは、そのことに気づいていたか?

ほんとうは、新しい定義が必要だったのだ。
生きること、楽しむこと、そして歳をとることの。
きみは、そのことに気づいていたか?

まっすぐに生きるべきだと、思っていた。
間違っていた。ひとは曲がった木のように生きる。
きみは、そのことに気づいていたか?

サヨナラ、友ヨ、イツカ、向コウデ会オウ。



『長田弘全詩集』(みすず書房、2015年より。もと2003年同じくみすず書房刊『死者の贈り物』に収む)

◆かけがえのない友をうしなった悲しみの夜、こだますら返ってこない闇に向かってことばをつぶやくことに何の意味があろう。語りかける相手はもういないのだから。
そうした日が永遠に来ないで済むように――上の詩に出会って、そんなことを思う。

◆同じ詩集の2つ前の「こんな静かな夜」には、次のような一節もある。

わたしたちが社会とよんでいるものが、
もし、価値の存在しない深淵にすぎないなら、
みずから慎むくらいしか、わたしたちはできない。
わたしたちは、何をすべきか、でなく
何をすべきでないか考えるべきだ。



全面的に承服はしないけれども、喪失の悲しみゆえにそう思うほかない一夜があることは分かる気がする。

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