CANPAN ブログ検索
Loading
  • もっと見る
« 2020年09月 | Main | 2020年11月 »
<< 2020年10月 >>
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
カテゴリアーカイブ
月別アーカイブ
日別アーカイブ
シンボルスカ「一目惚れ」[2020年10月12日(Mon)]

一目惚れ  ヴィスワヴァ・シンボルスカ
            沼野充義・訳

突然の感情によって結ばれたと
二人とも信じ込んでいる
そう確信できることは美しい

以前知り合っていなかった以上
二人の間には何もなかったはず、というわけ
それでもひょっとしたら、通りや、階段や、廊下で
すれ違ったことはなかったかしら

二人にこう聞いてみたい
いつか回転ドアで顔を突きあわせたことを
覚えていませんか?
人ごみのなかの「すみません」は?
――でも二人の答はわかっている
いいえ、覚えていませんね

もう長いこと自分たちが偶然に
もれあそばれてきたと知ったら
二人はとてもびっくりするだろう

二人の運命に取ってかわろうなどとは
まだすっかり腹を決めていないうちから
偶然は二人を近づけたり、遠ざけたり
行く手をさえぎったり
くすくす笑いを押し殺しながら
脇に飛びのいたりしてきた

しるしや合図はたしかにあった
たとえ読み取れないものだったとしても
三年前だったか
それとも先週のことか
木の葉が一枚、肩から肩へと
飛び移らなかっただろうか
何かがなくなり、見つかるということがあった
ひょっとしたら、それは子供のとき
茂みに消えたボールかもしれない

ドアの取っ手や呼び鈴に
一人の手が触れたあと、もう一人の手が
出会いの前に重ねられたこともあった
預かり所で手荷物が隣り合わせになったことも
そして、ある夜、同じ夢を見なかっただろうか
目覚めの後すぐにぼやけてしまったとしても

始まりはすべて
続きにすぎない
そして出来事の書はいつも
途中のページが開けられている


 『終わりと始まり』(未知谷、1997年)より

小池昌代はこの詩をアンソロジー『恋愛詩集』(NHK出版新書、2016年)の巻頭に掲げていた。

◆「偶然が必然に変わるとき」「運命は偶然の化学反応」「知るは神さまのみ」……似たような言い方がさまざまありながら、それらがすべて同じ糸の上に乗っかっているように思えるのは、物語の力、ということだろう。あるいは人は物語を生きるように運命づけられている、ということか。
それに気づかないとしたら、せっかくの人生が余りにもったいない。

しかし、それにしてもここに登場する「偶然」という天使の、身のこなしの愛らしく軽やかなこと。


| 次へ
検索
検索語句
最新コメント
マキシミリアナ・マリア・コルベ
コルベ神父のこと その2 (06/23)
タグクラウド
プロフィール

岡本清弘さんの画像
https://blog.canpan.info/poepoesongs/index1_0.rdf
https://blog.canpan.info/poepoesongs/index2_0.xml