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《合点のいかないもの》[2020年10月02日(Fri)]

椅子   木村孝夫

昔の姿を残したまま
朽ちていった納屋の扉を静かに開けた

光が奥へ奥へと入りこんでいく

たくさんの埃が沈んだまま
奥には古い椅子が二つ並べられていた

ずいぶん長い時間
納屋を開けることが無かったから
椅子の上に沈んだ埃は
たくさん考え事をしていたのだろう

ギシギシと低い声と甲高い声が
競い合うようにして話し始めるから
光はそこで一瞬立ち止まる

まもなく取り壊すので開けたのだが
風のおしゃべりで
取り壊されることは知っていたようだ

この椅子には
こぼれるほど沢山の思い出があった

奥へ奥へと光は入りこんでいく
すきま風が
ときおりやってきて埃を納屋中にとばす

椅子には椅子の固い思想があの頃はあった
今も固さはそのままだが生気がない

長い時間話しかけることが無かったが
椅子は椅子の言葉をしっかり覚えていた

黙って座れば
少しだけなのだが椅子の気持に寄り添える

沈んだ埃だって椅子にとっては立派な勲章だ
無駄口は一切たたかない

まずこの椅子を外に運び出すことにした
思い出を全部外に出してから
納屋と椅子を取り壊すことが順序だろう

綺麗に拭いて磨けばまだ使えるが
放射能で汚染されてしまった椅子は
いつかは思い出とも切り離されていくのだ

古い二つの椅子をみて
納屋の取り壊しに躊躇する話が出てきた
それでも壊さなくてはならない

そこに新しい家を建てて住むという
新しい生活の為に
もう椅子は用意されている

納屋の中に眠っていた椅子の思い出は
私一人のものになったが

何故そうならなければならなかったのか
合点のいかないものが
私の内には変わらず残った


*原発避難者の方が古里を離れ、そして戻ると決めたときのことをお聞きし書いたもの。

『木村孝夫詩集 夢の壺』(土曜美術社出版販売、2016年)より

◆納屋に眠っていた椅子たちの会話は、古いレコードが再び回り始めたようなものだろうか。
だが、果たしてそこから聞こえる声たちも放射能で汚染されてしまったというのだろうか?
たとい古いものを取り壊し新しい調度を置いて生活は新たに始めざるをえないにしても。

***

同じ詩集からは、以前「非戦」という詩を紹介した。
【2019年12月16日記事】木村孝夫「非戦」
https://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/1436



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