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木がいます[2020年09月09日(Wed)]


いのち  吉田博子

木がいます と
タイ語ではいう
木には命が宿っているからだ という
国の言葉が
生きとし生けるものと
命をもっとも大切にしている源
戦争は人の命を粗末にすること
人間同士が敵対して
殺し合いする
ことわざにも
「一寸の虫にも五分の魂」とある
一つ一つの生に命の輝きが
あかりを点している
たとえ小さな灯でも
命が消えゆくまで大切に大切に両手で
囲み守ってゆくことが
一番大切なこと
花は美しく咲き散ってゆく
命の儚さを嘆くことはない
継がれてゆく
たとえば球根となり実となり種となって
次世代へと引き継がれる
人の命も亡くなっても
その命を育みその命の輪となって
生きた者達の心の中で
大事に継がれる思い出となり
来世に生まれ変わる
森の中で
命のささやきが聞こえませんか
逝ったあなたに語りかける声に
答えるこだまが響くように


鈴木比佐雄・佐相憲一 『非戦を貫く三〇〇人詩集』(コールサック社、2016年)より

◆台風10号による九州・宮崎県での土砂崩れ、木々をなぎ倒し、260mにもわたって山肌をむき出しにした暴威に息を呑む。

ながく災害を目の当たりにして列島に暮らしてきた民族であるにもかかわらず、隣国の脅威を方便にして「敵基地攻撃能力の保持」を吹聴する政府――天にツバする烏滸の沙汰というほかない。

上の詩が平易に呼びかけるように、森羅万象にいのちの宿りを認め、それをないがしろに扱わない心はアジアにひろく分かち持たれた価値観のはず。





林檎と天秤[2020年09月09日(Wed)]

◆田舎の兄より林檎を送ってもらった。
今年は暑さで色づけの管理が難しかった、と添え書きがあった。

DSCN4368.JPG

早生の「未希ライフ」と「つがる」の2種類。
並べている内にどっちがどっちか分からなくなってしまった。味で判断することにする。

*****


天秤   神泉薫

今朝生まれたばかりの
銀色に光る小さな手のひらに聞いてみる
きみの上に乗ったつややかな赤い林檎ひとつ分の重さに 釣り合うものは何?
手のひらは答える
わたしもまだ産声を上げたばかり
この重みに慣れないのだ
林檎よ
お前の重さはどこから来たの?
林檎は答える
わたしもまだ実るという完成形の起源を知らない
わたしを実らせた知恵ある木の幹に聞いてみよう
わたしの重さはどこから来たの?
木の幹は答える
わしは ひたすら上へ向かって伸び上がる それだけに精神を集中したもの
わしの体の其処此処にふくらみを覚えたのは ただの偶然か必然か
澄みきった思考の持ち主
青空に聞いてみよう
わしの赤いふくらみはどこから来たのか?
青空は答える
わたくしは天上というまなざしを持つ傍観者
地上に起こる様々な事象の発芽を見守るだけの存在
あなたの体に実った林檎は
諍いと自由がせめぎ合う起伏に満ちた大地を 点々と新たな色彩にいろづけ
見えぬ闇の奥底であなたの根は放射状に広がっていく
木の葉よりも重い まるみを帯びた林檎は
ゆたかな水分をふくみ
渇きを覚えた者たちの咽喉と心をやさしく潤す
木よ あなたはその生に従って まっすぐ立っていればいい
林檎よ
あなたの重みは 世界から派遣された瑞々しい希望のふくらみ
やがて その意図を知った者が あの地平線の果てから訪れるだろう
もうひとつの銀色に光る小さな手のひらを携えて
あらゆる等しさが地球の軸となる日
内なる天秤のすこやかな均衡がこの星を飾れば
風の子守歌が聞こえ
揺れる唇の狭間に
がりり
しゃりり と
なつかしい解放音
ハレルヤ
ハレルヤ
引力から解かれ はれやかにスパークする
形而上の音楽
飛沫が
鳴る


*神泉薫『白であるから』(七月堂、2019年)より


◆その昔、収穫した林檎の重さを量るのに、分銅のついた竿秤(さおばかり)を使っていたのを思い出した。

この詩の「天秤」は、地上に降り立った天使の手のひらであるかのごとくで、それに載せられた林檎は「希望」の表象。釣り合うべきものは、やがて遠い地平線の果てからやって来るのだという。
してみれば、「希望」はその質量を計測されるものというよりは、それと釣り合い、対をなす「何か」を待ち受けているもの、ということになる。

その未知の「何か」によって均衡が成就したそのとき、喜びの楽音がこの星を包み込む。
それは地上に存在する者らを超えたものの「はからい」にほかならない。
秤」という命名の深遠な意味に思い至る。

◆◇◆

*同じ詩人の「フランチェスコの窓」という詩を昨年紹介しました。
その折り、作者名に誤記がありましたので訂正致しました。謹んでお詫びいたします。
【2019年12月20日 神泉薫「フランチェスコの窓」
https://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/1440



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